Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"ガール・オン・ザ・サード・フロア(Girl on the Third Floor)"(2019) Review!

カンヌ国際映画祭でパルム・ボール賞受賞(嘘)。

(※"イレイザーヘッド"の核心に触れています)

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公式トレイラー


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断言します。これはHeiroが今年観た、またはこれから観る映画の中で最もばっちい作品です。でも結構見所ある映画だと思いましたよ。ドロドロのベチャベチャもどんとこいなアナタだけ観てください。

 

 

あらすじ

身重の妻リズがいるドンは、購入した田舎の一軒家を住める状態に修繕すべく、泊まり込んで作業を始める。家の至る所から謎の液体が噴出したり、近所に住むという妖艶な美女サラから誘惑されたりで、作業は遅々として進まない。そんな中、この家には暗い歴史があることが明らかになり……。

 

スタッフ・キャスト

監督はこれが長編デビュー作となるトラヴィス・スティーヴンス。

主演はプロレスラーでもあるCMパンク。その他、"Blame"(未公開)のトリエステ・ケリー・ダンや、"100 Days to Live"(未公開)のサラ・ブルックスなどが出演。

 

 

これまで観た中で一番汚かった映画と言えば、真っ先にトルコ映画"ヘルケバブ 悪魔の肉肉パーティー"(ヒドイ邦題)を思い出しますが、これも中々。何てったって、一軒家を生物の体内のように見せてるんですよ。ダーレン・アロノフスキー"マザー!"で似たようなことやってましたが、品のなさでは本作の圧勝ですね。配管とかコンセントからは黒や白の粘液が常時トロトロ(何かに似てますが察してください)、「男らしい」ドンは割とそれらに自分から触れにいきます。おっそろしい。

 

プロレスラーでありながら(だからこそ)演技もできるしハンサムなCMパンクも良いですが、本作で一番素晴らしい演技をしてるのはビー玉ですね。複数の部屋を跨ぎながらこちらへ転がってくる、その動きが美しいです。意思を持っているよう。本作で人を殺すのはビー玉です。もしカンヌ国際映画祭に出品されたら(されるか)、確実にパルム・ボール賞受賞しますね。CGじゃないことを祈ります。

 

ドンは以前横領や浮気をやらかしていて、リズから今回最後のチャンスを与えられ、家を買って田舎でリスタートしようとしています。ボロボロの家を修繕するというのは、壊れかけの家庭を修復することに重なります。なので、ドンがまたやらかすと家の一部が壊れます。サラと浮気すると天井が抜けたり。そこら中から垂れ流されている粘液は、ドンの腐った性根を表しているようでもあります。ドンはマッチョ志向の男性です。"恐怖のセンセイ""ダニエル"で描かれたような、トキシック・マスキュリニティの問題を抱えています。相手が人間ではないとは言え、サラと浮気しても悪びれる様子もないし、常にオラオラしてます。この家は昔売春宿だったのが後から分かりますが、サラと顔面崩壊した女の子(この子がガール・オン・ザ・サード・フロア(三階の女の子))は当時身勝手な男たちに殺された娼婦(ガールは違うかも)でした。サラが「男が本当に愛しているのは権力」と言いますが、ドンのような男たちの被害者だったわけですね。以降、この家は住もうとする者(特に男)を誘惑し、誘惑に負けた者は殺されるという一種の試練を課す場所になっています。人によっては幸せに暮らしたらしいので、単に呪われているわけではないようです。 

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終盤で主人公がリズにバトンタッチしますが、ここで幽霊たちによる当時の売春宿で行われていた変態パーティが再現されます。これが非常に"シャイニング"っぽい。ドンが夢でサラと抱き合ってるとサラがいきなりガールに変わるビックリシーンもありましたが、"シャイニング"のお風呂場シーンを思い出しますね。美女と思ったら体が腐った老婆だったやつね。死が生(性)を模倣するというのは本当に悪趣味。そういう描写は"イット・フォローズ"にもありましたね。最初にこういう描写思いついた人には賛辞を送りたい。「あんたキモいよ!」って(褒め)。

最終的には、リズはドンを見限り、壁に埋められていたサラの骨をきちんと墓に葬り、無事出産、娘とともにこの家に住み続けることにします(ドンは幽霊となって娘を見守る)。普通に考えれば当然こんな家には住まない方が良いですが、ここからもやはり単純なお化け屋敷ホラーがやりたかったんじゃないんだなと思いますね。あらすじから予想できないフェミニズム的なテーマで終わります。最近こういうテーマのホラー多いですね。"Swallow/スワロウ"もそうだったし。

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ばっちいばっちい言ってきましたが、映像センスはかなり良いと思いますよ。オープニング、家の至る所を定点で撮ってるだけの映像なのにクールだし、終盤家の中がしっちゃかめっちゃかになるシーンでは非常に目を引く映像のオンパレードになります。壁の中に内臓らしきものがあったり、排水口からエラい量の血が噴き出したり。コンセントの穴から手が出てきたりね。

大抵のホラーでは、妊婦の方が襲われますよね。"ローズマリーの赤ちゃん"しかり、"屋敷女"しかり……(一瞬"屋敷女"的なシーンはありましたが)。まあ性的にだらしないキャラが死ぬのはいつものことですけど。霊らしきものがふと後ろを通ったり、ズームしないけど鏡に何か映ってたり。詰まった排水口から長い髪を取り除くと、穴の向こうに目が見えるなんてJホラー的なシーンまであって、不気味な演出が多くて良かったですね。気味の悪さはホラーにとって、少なくともHeiroにとっては超重要です(本作は気色悪さも兼ね備えてます(笑))。もしかしたら怖さより重要かも? ジャンプスケア(いきなり衝撃的な音や映像を出して観客をビックリさせる手法)が多いホラーってのはどうも安易に思えてね……、おい、去年ワーストの"ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷"! お前のことだぞ!!

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リズに視点が変わってからは、BGMも明らかにコミカルになります。トラヴィス・スティーヴンスは"死霊のはらわた"とかも好きなのかなと思いました。後、顔面崩壊してるガールのヴィジュアル最高だし、意外にも鳴き声(?)が可愛かった(笑)。そう、"天使とデート"のエマニュエル・べアールのように(伝わる人いるか……?)。何より、ガールがモンスターのような存在でないのが好印象でした。よくあるじゃないですか、幽霊とか悪魔のはずが動物みたいな振る舞いをするホラー。また、ガールは首を傾げもするんですが、非常に乙女チックでよろしいですね(笑)。モンスターにしか見えない幽霊・悪魔が首を傾げるシーンは基本嫌いなんですが、本作のガールは愛嬌あるので許します(笑)。"The Unholy"、お前は許さんぞ(未見のくせに)。

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ばっちいしテンポがスローだし、フェミニストのキャラクターが殺されたり、犬が殺されたりするので、単純な勧善懲悪でなく人によっては後味悪いかもしれませんが、観る価値は十分あると思いますよ。ところで、犬は洗濯機で殺されるんですが、"ファブリック"と言い、ホラーに洗濯機の流れ来てるんでしょうかね……。

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ラヴィス・スティーヴンスは、ホラー界の大御所バーバラ・クランプトンとラリー・フェッセンデンが出演している新作"Jakob's Wife"の評価も良いので、そのうちその紹介もしたいですね。

 

 

 

 

★★★★★★★  7/10点

Rotten Tomatoes  84%,22%

IMDb  4.6

バレなきゃ浮気しても良いと思ってる人にオススメ。