Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"イーブルアイ(Evil Eye)"(2020) Review!

愛に大事なのはIじゃなくてYou。

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公式トレイラー

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インド映画じゃなくアメリカ映画なのに、ここまでインドっぽい顔(「っぽい」については後述)ばかり出てくる映画は珍しいよね。「アメリカ映画が"白すぎる"問題」へのアンチテーゼとして有意義な作品だとは思うけど、観終わって、うん……まあ……みたいなリアクションになりましたとさ。

 

 

あらすじ

母親のウシャには結婚前、ストーカーとなった元恋人に殺されかけた過去があった。それから30年後、娘のパッラヴィーが結婚を考えている彼氏を連れてくる。しかしウシャには、その男がかつてのストーカーの生まれ変わりに思えて仕方なく……。

 

スタッフ・キャスト

監督はこれが長編デビュー作となるエラン・ダッサニと、ドラマ映画"Watercolor Postcards"のラジーヴ・ダッサニ(双子)。

ウシャ役は"カーマ・スートラ 愛の教科書"のサリタ・チョウドリー、パッラヴィー役は"さよなら地球! スマホを切ったら世界が終わってた"のスニータ・マニが演じた。他。

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はい。Welcome to the Blumhouse作品を取り上げるのは3本目ですね。1本目の"ノクターン"は今年ベスト級で、2本目の"冷たい嘘"は今年ワースト級でした(笑)。バンドのムック的に言えばワーストこそが本当のベストなんですけど、"冷たい嘘"は普通にワースト級でした。ちくしょう。

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じゃあ本作はどうだったのか? うん。何というか……まさに凡作って感じだったというか……。興味深いところはあるんですよ。俳優たちは非常にインドっぽい顔の人ばかりだしね。実際はスリランカ系の人もいるみたいですけど。個人的に一番好きな顔のインド人は"バーフバリ"のタマンナーなんで。後編の"バーフバリ 王の凱旋"でヒロインがアヌシュカ・シェッティに交代しますが、Heiroにとってのヒロインはアヴァンティカことタマンナーでしたね。ホントたまんなーな感じなんですよ。何にしても"バーフバリ"死ぬほど面白いので必見です。パッラヴィーの彼氏サンディープを演じたオマール・マスカティはちょっとガイ・リッチー"アラジン"のメナ・マスードに似てました。メナ・マスードはエジプト系カナダ人で、オマール・マスカティはインド系アメリカ人のようですが。あ、"アラジン"と言えば、ジャスミン役のナオミ・スコットもインド系ですよね。タマンナーの次に好きかな(笑)。

まあただ、すごい濃い顔したスニータ・マニが普通のアメリカ人っぽいパッラヴィーを演じているのが面白いですよね。パッラヴィーがインド系アメリカ人って設定だったかどうかは忘れましたが、恋愛に関しては割とオープンな態度です。インド人ってもっと禁欲的なイメージでしたけど。母親のウシャはインド人なので、パッラヴィーにインド的価値観で色々言いますけどね。パッラヴィーは元カレが8人もいるそうですよ。むしろ普通より多くない? 後、家の中では露出多めですし。ウシャにはパッルーと呼ばれています。良いですね、こういうお国柄が出る名前が出てくるの。響き可愛いし。

 

星占いとかを信じているウシャは、段々昔のストーカーとパッラヴィーの彼氏サンディープとの共通点を見出し、生まれ変わりなんじゃないのと疑い始めます。普通の映画だとウシャやべぇってなるとこですが、本作はホラーですからリアリティのラインが違うじゃないですか。実際生まれ変わりなんだろうなと思ってたら本当にそうで、捻りがないんですね。そうは言ってもパッラヴィーは迷信深くない人ですから説得は上手くやらないといけないわけですが、ウシャはそれができなくて、母子の絆にヒビが入ります。うーん何だか。サンディープは、積極的にはウシャとパッラヴィーの仲を裂こうとしないんですけど、こういう話なら"透明人間"みたいに、ガスライティングでウシャを追い込んでも良かった気がしますね。それか、完全にウシャをもっと精神的に危うい人物にするか。ウシャは、言ってることは周りから見てアレではあるんですが、本人がしっかりしてるようにも見えるし、本作はホラーなので、最初から「結局正しいんだろうな」って思っちゃうからね。

後テンポも悪くて、90分しかないのに退屈しちゃいました。大体のオチが分かってるのにほとんど何も起こらないし、ウシャのストーカー話の回想が結構入るし、別の人物のシーンになる時にいちいち町の俯瞰ショットが入るんですが、使いまわしてるのかって思うくらいこれが毎回同じような画なんですよ。それが画面的な退屈さにも繋がってて。逆に天丼ギャグなのかって思う人もいそうですが。

 

サンディープは外面は良い感じですが、パッラヴィーが思い通りに動かないとちょっと不機嫌そうになるので、こいつ実はヤバいヤツだなと観客はすぐ気付きます。だってDV男っぽいんだもん。後半、ウシャたちを殺そうと襲いかかったら反撃され目に唐辛子を浴び、「目がぁ!!」と言って悶絶。思うんですけど、どこかに痛みを感じた時そこの名称を口に出すのって漫画とか映画の中だけですよね。未見だけど、リメイク版"ウィッカーマン"ニコラス・ケイジが「目に蜂がぁ!! 目にぃ!!」って迫真の演技をしたためにギャグ映画だと認識されるようになっちゃったでしょ。サンディープ……お前、ニコちゃんだったんか!?

 

サンディープを倒した後、ウシャが「サンディープみたいな男はどこにでもいる」と言います。要するに、本作は生まれ変わりの話になってはいますが、世に蔓延るハラスメント野郎へのリベンジムービーなんですよね。それだけだと「なるほど」くらいのことだけど、「それを親から子に語り継ぐ」ってテーマがフレッシュでした。インドにおける女性差別の話についてはよく聞きますし、日本以上に切実な問題なんじゃなかろうか。娘には、自分の身を守る術を教えようってことですよね。

ただ、メタファーとしてとは言え、そういう設定にしちゃうとね。最後に病院で、ある赤ちゃんを意味ありげに写して終わる、よくある「まだ終わってないエンド」なんだけど、「赤ちゃんによっては先天的にそういう気質を持って生まれてくる」描写にも見えちゃって、ちょっとモヤモヤしました。そりゃある程度事実でしょうけど、子どもが育つ上では環境の影響も大きいわけで。遺作なんであんまり悪く言いたくはないんですが、キム・ギドク"人間の時間"のオチに似たものを感じました。あっちの方が口あんぐりしましたけど。そのせいで去年のワースト7位にしたしな……。

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途中まではウシャもサンディープと同じくパッラヴィーにああしろこうしろと口うるさいです。それってパッラヴィーの自主性を重んじてないというか、完全に信頼はしてない証なんですよね。最終的なメッセージは「愛とは相手を自分の望む形に変えようとすることではなく、ありのままを受け入れること」だと思います。"RUN/ラン"とも通じるとこありますね。過保護な母親とDV男を鏡のように描くのは結構攻めてますが、肝心のホラー映画としてのクオリティが期待を超えてはこなかったなー。

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あ、Amazon。邦題を「イービルアイ」じゃなくて「イーブルアイ」にしたのは偉いぞ! そっちの方が実際の発音に近いし。内容は「いびる愛」って感じでしたけども。

 

 

★★★★★☆  5.5/10

Rotten Tomatoes  44%,28%

IMDb  4.8

とりあえず、インドの三輪タクシー「リクシャー」の名前の由来が日本語の「人力車」だったのを知れて良かった。