Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"The Scary of Sixty-First"(2021)

これは陰謀論じゃない。現実だ!

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公式トレイラー


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まーたヘンな映画っぽいですよ、コレ。でも、今年のベルリン国際映画祭のエンカウンターズ部門(新人発掘目的の部門)に選出されていて、最優秀新人作品賞を受賞してるらしいです。おっしゃあ。

 

 

あらすじのようなもの

マンハッタン、アッパー・イースト・サイド地区の新築マンションに暮らす2人のルームメイトは、そこがかつてジェフリー・エプスタインが所有する物件だったことを知ってしまう。そして、隠された秘密を暴こうとするうちに、それを追体験する羽目になり……。

 

スタッフ・キャスト

監督はこれが長編デビューとなるDasha Nekrasova(「ダーシャ・ネクラーソヴァ」と本人は発音してました)。

主演はこれが映画デビューのMadeline Quinn(マデリーン・クイン)。ドラマ"マンハッタンに恋をして ~キャリーの日記~"のBetsey Brown(ベッツィ・ブラウン)などが出演。他。

 

賛辞

「A brash, gutsy morbidly funny first feature.(威勢が良く、根性があり病的におかしい長編デビュー作)」-Variety

「An unforgettable 'Eyes Wide Shut' revision for the QAnon age(Qアノン時代の、忘れがたき"アイズ・ワイド・シャット"改訂版)」-Indiewire

「One of the most audacious and provocative debuts in recent horror history.(近年のホラー映画史で、最も大胆不敵で挑発的なデビューのひとつ)」-The Spool

「A spiral of conspiracy theories, obsession, the occult, drug abuse and likely insanity.(陰謀論、強迫観念、オカルト、薬物乱用、そして実際にありそうな狂気のスパイラル)」-L.A. Times

 

 

ダーシャはまだ30歳らしいです。すごい。右派メディアのインタビューに、セーラー服姿でバーニー・サンダースの支持者と答えた("美少女戦士セーラームーン"が好きらしい)ことで「セーラー社会主義」というニックネームで呼ばれるまでに至った人物のようです(笑)。ちなみにこれがその時の動画。やはりセーラー服は強い。アンニュイな皮肉屋って感じですね。実に良い。「Red Scare(赤狩り)」って名前のポッドキャストもやってるみたいです(笑)。すげーな。

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ダーシャは前に"Wobble Palace"という映画で脚本と主演を務めています。例によって観たことないわけですが、その監督がユージーン・コトリャレンコって人なんですな。最近だと日本でも公開された"スプリー"って映画作った監督です(まさかこの名が日本に輸入されるとは!)。Heiroはマンブルコア映画に興味があって、その界隈で知られているケイト・リン・シールって女優が出てる"A Wonderful Cloud"って作品の存在を前から知ったんですが、それがコトリャレンコ作品だったんですよね。このダーシャがここで繋がってくるとは。マイナーな映画でも知っとくと面白いことがあるなぁ!

 

はい。で、そんなガチ勢のダーシャがデビュー作のテーマに選んだのは、実在の億万長者でロリコン性犯罪者(だった)ジェフリー・エプスタインの呪い(?)。2019年に獄中死してますけど、実際にアッパー・イースト・サイドに邸宅があったようで。穢れた行為が行われた場所も穢れるのですね。トレイラーのカルト映画感と音楽が何となくピーター・ストリックランドの"ファブリック"を彷彿させます。VHSみたいな画質だしさぁ。

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賛美で言われてるQアノンって、簡単に言えば、影で国家を操ろうとしている反トランプ派のエリート集団(ディープ・ステイト)がいて、しかもそいつらはサタニストでペドフィリアでうんぬんっていう、トランプ派の陰謀論ですよね。まあ普通に考えてトンデモハップンな話なんですが、ダーシャは資本主義に否定的な立場ですから、トランプなど資本家たちと交流があったエプスタイン(しかも、訴えが棄却されてるとは言えトランプはエプスタインとともに性暴力事件で告訴されている)をテーマにして、「いやいや、あんたらは本当にペドフィリアじゃん」と強烈なカウンターパンチを食らわすために本作を撮ったんでしょう、おそらく。ガッツがあるね。ダーシャとマデリーンで脚本も書いてて、それも攻めてる。

 

ダーシャは女優として出てもいますが、トレイラー観る限り主役っぽいのに役名が「The Girl」ってのはどういうことなんでしょうね。被害者っぽい黄色ジャージの女性が不気味な雰囲気を醸し出しています。か細い声でね。スプーンで紅茶かなんかを混ぜてますが、これジョーダン・ピールっぽい! っていうか"ゲット・アウト"っぽい! キャサリン・キーナーが紅茶混ぜるあのシーン、ジョーダン・ピールの制作会社モンキーポー・プロダクションズのロゴでも使われてるし。

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めっちゃ観てみたいですし、公開するなら早めにした方が良い題材ですけど、上陸は望み薄かなー。マイナーすぎるしねぇ。ヴェネツィアで受賞してるって強みはあるけど、それで日本の配給会社がじゃあ買うってなるかって言われるとね。カンヌで受賞してたって上陸するとは限らないわけだし。まあ気長に待とう。"スプリー"はそのうち観たいですね。

 

 

Rotten Tomatoes  63%,N/A

IMDb  5.0

ダーシャの名前だけでも覚えて帰ってね!