Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"ワンダーウーマン 1984(Wonder Woman 1984)"(2020)

プリンセスものとしても現代的

("ミッション: 8ミニッツ"、"ゆれる人魚"のオチに触れています)

 

公式トレイラー


映画『ワンダーウーマン 1984』日本版予告 2020年12月18日(金) 全国ロードショー

 

別にこのブログでこんなビッグネームを取り上げなくても良い気がするんですが、クリスマスにこれ観て勢いで年末ベストに入れたので、ちょっと話します。

 

 

あらすじ

1984年。ワンダーウーマンことダイアナ・プリンスは第一次世界大戦で失った恋人スティーヴを忘れられずにいた。スミソニアン博物館職員として働きながらヒーロー活動を行い、新入職員のバーバラとも友人に。そんな折、触れた者の願いを叶える魔法の石が発見され、ダイアナは本物とは知らずスティーヴと再会することを願ってしまう。その石は実業家マックス・ロードが血眼になって探していた代物でもあり、彼に石が盗まれたために世界滅亡へのカウントダウンが始まる。

 

キャスト・スタッフ

監督は前作に引き続きパティ・ジェンキンス

ダイアナ役、スティーヴ役も引き続きガル・ガドットクリス・パインが務める。バーバラ役にはポール・フェイグ版"ゴーストバスターズの"クリステン・ウィグ、マックス役には"キングスマン: ゴールデン・サークル"のペドロ・パスカル。他。

 

 

いやあ、年末に最高の作品が来てしまいました。コロナのせいで半年公開が延びましたが、結果的には良かったかもしれません。みんなへのクリスマスプレゼントになったし、本作の最後もクリスマスだし、クリスマスの精神がテーマでもあるし。略称が "WW84"なのは、世界大戦(World War)とかけているからでしょうね。

 

劇中でも言われますが、魔法の石(ドリームストーン)は「猿の手」と同じようなものです。"猿の手(The Monkey's Paw)"は、作家のW・W・ジェイコブスによるホラー短編です。ちょっとネットで調べると内容は分かるので、良かったら検索してみてください。猿の手は他の作品にもよく出てきます。Heiroの好きな漫画 "xxxHOLiC(ホリック)"にもそのものズバリのエピソードが出てきますし、スティーヴン・キングの"ペット・セメタリー"も似たような話です。ちなみに、ジョーダン・ピールの映画製作会社が「モンキーポー・プロダクション」という名前です。猿の手は持ち主の願いを叶えますが、叶え方が近道反応的なのです。近道反応とは短絡的な欲求解消をすることです。例えばあれが欲しい、だから万引きして手に入れるとか。イライラする、だから人を殴るとか。原作の方では、猿の手で無理に運命を捻じ曲げようとするとその分のツケが来るという性質を持っているようですね。"鋼の錬金術師"読んで、等価交換の原則にもけっこう震え上がったHeiroにはかなり怖い話です。人間には意思がありますからね、数的・物理的な等価交換には納得できないことも多いですよ。

さて、今回の"ワンダーウーマン 1984"でも猿の手節は健在。ダイアナがスティーヴに再会したいと願うと、さすがに死んだ時の姿で現れることはないですが(ホラーじゃないからね!)、実在するある男性の姿がダイアナにだけスティーヴに見えるというかたちで実現します。猿の手は無から有を生み出すことはしません。原作ではお金が欲しいと願っても魔法のようには出てこず、息子が死んだためにそのお金が舞い込んできます。雑なかたちで辻褄を合わせようとするんですね。これが完全に猿の手側の基準で決まるのが怖い。今回のスティーヴの件だと、ダイアナが願った後はその男性は完全にスティーヴの記憶と人格を持って行動してますので、元の人格は一時的に消されているんだと思われます。"ミッション: 8ミニッツ"はラストで観客の予想の斜め上のハッピーエンドを迎えますが、ジェイク・ギレンホールに存在をかき消されてしまうかわいそうな被害者がひとりいて、今回もそれを思い出しました(笑)。本作のラストではその男性の人格は戻ってきますけどね。スティーヴだった間の記憶はどうなってるんだろう……。

マックス・ロード自身がドリームストーンになると、恣意的に願いの代償を選べるようになるという設定は面白かったですね。借金を借金で返すような行為でもあって、ストーンになる前とやってること変わらないのも興味深いです。

 

「願い」と言えば、「I wish……」というセリフ(正確には歌詞)で始まる映画がありました。ミュージカル、"イントゥ・ザ・ウッズ"です。あっちにもクリス・パインが出てたのも面白いですね。クリス・パインはその名も「チャーミング王子(Prince Charming)」役。プリンス・チャーミングとはいわゆる白馬の王子さまのことですが、シンデレラの相手役の名前にもなっていますね。本作でもクリス・パインはプリンス・チャーミングで、80年代の文化に目をキラキラさせながら見当外れなことを言う様子が何とも愛おしいですね。"イントゥ・ザ・ウッズ"でも、大きすぎる願いを抱く人物は破滅します。初めは曲が耳に残りにくいかもしれませんが、Heiroもお気に入りのミュージカルのひとつなので、ぜひ鑑賞をオススメします。

 

ダイアナはスティーヴと再会できた代わりに、徐々にスーパーパワーを失います。観ていて、童話の"人魚姫"を思い出しました。お馴染み、人間の王子に恋した人魚姫が声と尻尾と引き換えに人間の足を得るものの、王子の愛を得られずに泡と消える悲恋の古典プリンセスストーリーですが、ダイアナの場合そうはなりません。 "人魚姫"の場合、人魚姫が人魚に戻るには王子をナイフで殺す必要があり、それをすれば水中で生きられるというスーパーパワーを取り戻せるのですが、そうしません。恋愛的なものがゴールになっているのです(とは言え、人魚姫にはアンデルセン自身が投影されているという説が一般的なようで、かつてのディズニーのプリンセスものと同列に扱うのは難しいような気もしますが)。一方、ダイアナはある意味スティーヴを殺してスーパーパワーを取り戻します。自らの使命、つまり個人の恋愛よりさらに大きな人類への愛を選んだと言えます。しかも、スティーヴのアドバイスのおかげでダイアナは空を飛ぶというスーパーマンばりの能力まで手に入れます。完全にスティーヴと精神的にひとつになったことのメタファーです。思い出してみると、前作でのダイアナとスティーヴの出会い方って、海に不時着したスティーヴをダイアナが救助するんですよね。"人魚姫"では、難破船から放り出された王子を人魚姫が救助します。これは意識してのものなのかなあ。Heiro説では、"人魚姫"的な伏線を続編でひっくり返した形で回収したことになります。完全に余談ですが、2015年のポーランドのミュージカル人魚映画で"ゆれる人魚"という実にヘンな作品があります。それは人魚を2人の姉妹にしたエログロ"人魚姫"なんですが、ラストで王子と抱き合っていた姉妹の片割れが、カメラが360度回ると泡になっているというシーンがあります。幻想的で哀しいシーンなんですが、本作でもスティーヴに最後のキスをした後はスティーヴが柱に隠れて見えなくなるというシーンがあって、すごく似てるというわけでもないですがそれを思い出しました。どちらも死ぬほど素敵なシーンでしたね。"ゆれる人魚"の日本公開は2018年ですが、そっちもその年のベスト10に入れても良いほど好きです。良ければチェキ。

 

最初のアマゾン・オリンピックのシーンで、ダイアナは真実こそが大切なんだと教えられます。そう教えるのは、ダイアナの母ヒッポリタ女王。これまた面白いのが、演じているのが"シー・フィーバー 深海の怪物"に出演していたコニー・ニールセンだということ。同作ではハーマイオニー・コーフィールド演じる、科学的な事実、言うなれば真実を重んじる主人公に対抗する、迷信や感情を重んじるキャラクターを演じていました。女王役は前作からの続投とは言え、面白いキャスティングです。と言うか、本当に最近Heiroが観ている映画ってどこかしら共通点があることが多くて不思議です。

 

ダイアナとスティーヴの再会というだけで十分すぎるほどハッピーなのに、花火の中の飛行シーンとか先述の別れのシーンとか名シーンも多くて、見どころ満載の映画です。バーバラへのフォローが足りないので後日談がほしいとか、願いを叶えるにはその人に触れる必要があるはずなのに、マックスが衛星を利用して全世界の人々に働きかけるところとかツッコミどころは多いです(確かに働きかけることを「触れる」という言葉で表現していましたが、それただの言葉遊びだから!)。フェイクが蔓延る現代ですが、本当に大切なものは真実と他人を思いやること。他人を思いやることは本当のクリスマスの精神でもあります。本作のラストで、アマゾン族の伝説の英雄アステリアが人間界に紛れて人知れず人助けをしている姿が描かれます。アステリアを演じているのは、70年代に放送されたテレビドラマ版"ワンダーウーマン"でワンダーウーマンを演じていたリンダ・カーターです。今のワンダーウーマンガル・ガドットも人間の中で一番ワンダーウーマンに近い存在ですから(笑)、真実について語っている本作こそが虚実入り混じったところも面白いなと思います。マックスが許されちゃうのが子ども向けのおとぎ話みたいな感じなので、硬派な前作が好きだった人には刺さらないかもしれませんが、懐かしのヒーロー映画然としててこれはこれで良いのでは!

 

 

★★★★★★★★  8/10点

 

Rotten Tomatoes  60%,74%

IMDb  5.5

評価はそんなに高くないですが、お子さんか、自分の心の中の子どもと一緒に観よう!