Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書(Yes, God, Yes)"(2019) Review!

性欲を感じたら、自分を罰する代わりにマシュマロを焼け!

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公式トレイラー


「ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書」予告

 

新年1本目は無事面白かった! サウス・バイ・サウスウェスト映画祭で審査員特別賞、サンタフェ・インディペンデント映画祭(そんなのあったの)で観客賞受賞し、2019年の傑作コメディとしてすでに大評価されている本作。期待に違わぬ面白さでした。カミング・オブ・エイジ(日本語に訳しづらいけど、強いて言えば「お年頃」?)ものなのでどうしても下ネタが多くなりますが、どうかご理解ください。Heiroも赤くなりながら書いているのでございます。カトリックについてあまり知らないので、ちょこちょこ調べながら書いてみました。

 

 

あらすじ

厳格なカトリックの家庭で育てられたアリスだが、16歳という多感な年齢のため性への興味が尽きない。尽きないものの特に行動には移していなかったのだが、クラスの男子と「サラダした」(後述)とあらぬ噂を立てられ、より敬虔なクリスチャンになるよう学校の宗教キャンプへの参加を促されるが……。

 

キャスト・スタッフ

監督はこれが長編デビューとなるカレン・メイン。

主演は"ストレンジャー・シングス 未知の世界"などのナタリア・ダイアー。神父役に"ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト"のティモシー・シモンズ、アメフト部おとぼけイケメンのクリス役に"ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから"のウォルフガング・ノヴォグラッツ(すごい名前!)。他。

 

 

この作品はカレン・メインによる同名の短編を長編映画化したものです。短編の時点で主演はナタリア・ダイアー。主人公アリスは言葉にするとなかなかあざといことをしてるのですが、嫌みがないと言うかむしろ好感すら持てるバランスでナタリアが演じていて、上手いしけっこう個性的な女優だなと思いました("ストレンジャー・シングス"未見)。本人25歳なのにちゃんと高校生に見えるし。本作は"性"春コメディなんですが、コメディエンヌとしてバッチリです。完全に余談ですが、"トゥモローランド"で主演してたブリット・ロバートソンも同作で良いコメディエンヌぶりを発揮してて好きになったんですが、あんまり売れてなさそうですね。残念……。

監督のカレン・メインは、以前にジリアン・ロベスピエール監督(名前!!)の"Obvious Child"の脚本執筆に携わっています。そっちは日本上陸してなくて未見なんですが、聞くところによると人工妊娠中絶を扱ったコメディ(!?)なんだそう。カトリックでは中絶は禁じられてて、"ストレンジ・フィーリング"でもカトリックが扱われていますから、監督個人のテーマがカトリックなのかなと思ったら、本作は監督の半自伝的内容のようです。本作でも「授業で中絶ビデオ見た?」「言わないで! 楽しみにしてるの」といったブラックな会話があります。監督は今はカトリックじゃないみたいで、だからこそシニカルなコメディになってるんでしょうね。時代設定もおそらく監督が学生だった2000年頃になっており、タイタニックの話題が普通に出てきたりします。ちなみに、最近他にも"Unpregnant"という中絶コメディが作られています。ヘイリー・ルー・リチャードソンが出てるやつね。日本じゃこんなの作れないわな。Heiroとヘイリーは名前が似てて親近感があるので紹介しました、はい。しかもヘイリー・ルー・リチャードソンは若手スターの中でも屈指の良い子感ある人でね。関係ないですけどね。あとヘイリー・スタインフェルドもヘイリー・ベネットも好きです。余談ですけどね。そう言えばノルウェーのコメディ映画に、同じく女子の性欲について描いた"15歳、アルマの恋愛妄想"という作品がありました。主人公らが地元の街の看板に必ず中指を立てるシーンが笑えました。内容は覚えてませんけどね。

 

まず邦題。"ストレンジ・フィーリング"は"ストレンジャー・シングス"にかけたんでしょうけど、そこは別に良いですというか嫌いじゃないです。後半のせいで敬遠する人多いんじゃ……いやむしろ観る人増える(笑)? どちらにせよ、そのものズバリなシーンはほとんどと言って良いほどありませんし、あったとしてもほぼパソコンの画面に映るのみです。原題の"Yes, God, Yes"は直訳すれば「はい、神さま、はい」で敬虔なクリスチャンっぽいですが、ここでは「イイ、ヤダっ、イイ……」みたいなアダルティーなセリフに引っ掛けてるんだと思います(笑)。うまいね! ……皆さん、今回の記事は全編こんな感じですよ。覚悟してね。お互いにね。

 

性教育の授業。男の性欲は電子レンジで女の性欲はオーブンなんだ、子作り以外の目的で致すのはダメだ、ふたりでもひとりでもだ云々かんぬんと話すマーフィ神父。神父を横目に、アリスは気になるクラスメイトのウェイドのことがチラチラ見ています。帰宅すると、観客にとってはすごく懐かしい見た目のパソコンを立ち上げ、早押しアナグラムクイズのチャットルームに参加。答えがお気に入り映画の"タイタニック"だったので正解一番乗りしたアリスに、ご褒美としてハンドルネームHairyChest(胸毛ぼーぼー)さんからエロ画像が送られてきてお口あんぐり。代わりにそっちの写真もくれと言われ、アリスは友だちのヘザーとのツーショット写真を半分に折ってスキャナーにかけ、友だちの写ってる方を胸毛さんに送ります(おい)。そのまま胸毛さんからセクシーチャットしようぜと提案が来てそれに乗るアリスですが、「君の濡れてるね」というコメントに対して「あなたも濡れてる」と送ります(笑)。あんまり男には言わないですよね(笑)。さらに画像が送られてきて女性がお股に手を当ててるやつだったものだから、アリスも真似……してみようとしたところで母親からご飯の呼び出しが。こんな感じで、この後もアリスがひとりで遊ぼう(隠語)としたらすかさず邪魔が入ります。この邪魔はアリスの超自我の介入のメタファーなのか、アリスの行為をアリスの周囲が認めないことのメタファーなのか。食卓でパパが飲み物をこぼしてママにかかってする「濡れちゃったでしょ」「濡れてないだろ」の会話も、アリスにはそういう風にしか聞こえません。

 

翌日、学校に行くとアリスがウェイドと「サラダした」噂でもちきり。本作の最初で「サラダする(salad tossing)」の意味が明かされますが、なんと「舌でお尻を舐める行為」を指すようです。普通「tossed salad」はドレッシングで和えたサラダのことを言いますので、かなり紛らわしい表現ですね。ちなみに、統合失調症の症状で会話がまったく意味不明な、脈絡のない単語の寄せ集めになることがありますが、その状態は「言葉のサラダ」と呼ばれます。それは実際にサラダをイメージしやすい表現ですけど、「サラダする」はどのあたりがサラダなのか……いや考えたくない。ちょっと調べると、「tossing 誰々の salad」でもシモの意味は成り立つらしいので、目の前の人に「混ぜてあげよっか?」って言ったつもりが「舐めてあげよっか?」に取られる可能性もありそう。キケンだぜ。そんなことを噂されている状態で、アリスはよりによってデザートのチョコムースか何かを食べ、フタについたチョコを豪快に舐めとり、皆に嘲笑されます。実際ウェイドとそんなことはしていないので、ウェイドにとってもかなり迷惑。アリスはなんとヘザーと手を繋ぐウェイドと鉢合わせしてしまい、淡い恋は容易く玉砕……しただけでなく、歯にチョコがついた状態でニコッと笑いかけちゃったのでヘザーから「キモっ!」と軽蔑される始末。チョコが何に見えたのかは言わずもがな。いやあ意地悪なギャグだな(笑)。Heiroは爆笑しました。

 

先生たちにも噂が知れ渡り、理不尽にビッチ扱いされたアリスは「キルコス(Kirkos)」という、神と仲間との絆を深めるための4日間の宗教キャンプへの参加を勧められます。これはおそらく、実際にあるらしいカトリックの「カイロス(Kairos)」という修養会(しゅうようかい、retreat。そういうキャンプのこと)がモデルになっていると思われます。カイロスとはギリシャ語で「時」を表しますが、ほぼ同じ意味を持つ「クロノス」と対になる概念で、前者は主観的・精神的な時間を、後者は物理的な時間を示すようです。ストップウォッチ機能付き腕時計をクロノグラフと言いますが、それはクロノスから来ているワケです。カイロスには「チャンス」の意味もあるようで、修養会は神に近づける絶好の機会ということですね。キルコスについては、ギリシャ神話に同名の霊鳥がおり、鷹などとして表現されるようなんですが、キリスト教図像学では妬みの象徴のようです。何に対しての妬みなんでしょうね。それか、ギリシャ語でいう「circle」のことかと思われます。その場合は宗教的な深い意味はないかもしれません。キルコスの中で円になって歌うシーンがあるので、仲間の輪みたいな意味でつけたのかも。カトリックへの反発が込められた映画なので、実在するカイロスという名前を扱うと逆にカトリックの人からの反発が予想されたんですかね。一瞬「Kirkos」は「Kairos」のアナグラムなのでは、アナグラムクイズも出てきたし、あれ、もしかして天才……?と思ったら普通に違いました。

友人のローラと一緒に参加することにして、スクールバスでキャンプ場に着くと、先輩であるアメフト部エースのマッチョイケメン、クリスらに出迎えられます。クリスのぼーぼー腕毛から目が離せないアリス。あんまり日本だと毛深い人はモテない気はしますが、確かに年頃の女子からすると毛はミステリーかもしれませんね。キルコスでは4日間のそれぞれの日に「自問の1日目」「涙の2日目」「受容の3日目」「生きる4日目」と名前がついています。何はともあれ、こうしてキャンプ1日目がスタート。

 

アリスは先輩のニーナに部屋まで案内され、時計と携帯を預かると言われます。携帯のゲームにハマっている現代っ子(当時)のアリスは、携帯は持ってないフリをし時計だけ渡します。その後はグループ分けになり、アリスはクリスと同グループになります。最近感じた感情のアンケートで、アリスは正直に「turned-on(ムラムラする)」に丸をつけてしまいますが、考え直して鉛筆についた消しゴム(これが本来のイレイザーヘッド)で消そうとしますが、逆に汚くなっていくばかり。あるある!! そうする間に用紙回収の時間が迫り、焦ったアリスはその欄を真っ黒に塗り潰して見えなくします(笑)。その後はニーナのスピーチ。家庭の中で居場所がなく、神のおかげで救われたと涙ながらに話します。その夜、ヒマすぎて携帯ゲームをするアリス。仰向けに寝転がりながらお股辺りに携帯を置いていたもんだから、ゲームオーバーになりバイブレーションが発動して「これは何だか良いぞ」と思うものの、壁にある十字架が気になって……。

 

2日目。ハイキングの最中、他の女子が転んでしまいクリスが颯爽と助けるのを見てジェラシーなアリス。自分もワザと大げさにコケて、クリスに小屋までお姫様抱っこで送ってもらうことに成功します。その時のアリスの上目遣いが何ともあざといこと! 部屋で大人しく休んでいたアリスをニーナが心配して来てくれますが、タイミング悪く棚に隠した携帯が震え始め、没収されてしまいます。その罰として、神父から清掃作業を命じられるアリス。掃除を終え、神父の部屋にパソコンがあることを発見したアリスはチャットで「サラダる」の意味を尋ねますが、足音が聞こえてきたので途中で断念。部屋に戻る途中でニーナに会い、「色欲に見立ててマシュマロを焼いたの」とスモアをもらいます(s'more。キャンプなどで定番のお菓子らしく、チョコと焼いたマシュマロをクラッカーで挟んだもの。some more(もっと欲しい)が語源。普通においしそう)。その夜は親から子どもへの手紙の朗読会。アリスのパパからの手紙には、「一緒に教会に行けて嬉しい、今後も正しくあってほしい」というメッセージが。

 

3日目。各グループに分かれ、これまでの辛い体験を共有する時間に。他のメンバーは彼女にフラれたとか、祖母が亡くなったことを話しますが、どうもそういうエピソードが特にない、のほほんとしたアリス。何もないとも言えず、本当は今も実家でピンピンしている愛犬のガスが死んじゃったと嘘をつきます(笑)。その後、神父が自分のパソコンに卑猥な内容のチャットが残っていたと生徒たちに告げに来ます。パソコンの履歴を消してなかったこともそうですが、アリスはアンケート事件の時も携帯事件の時も証拠隠滅の脇が甘いんですよね(笑)。そこが最高に愛おしいんです。神父との個別面談でも、ウェイドとの噂が事実無根であることをやはり信じてもらえないアリス。食事になり、アリスはニーナと一緒にいたものの、別の先輩のアダムがニーナに用事があると言い2人で去ります。食事時間が終わり、アリスは課せられた清掃業務を始めます。汚いゴミ箱の掃除を本当に嫌そうにやるアリスがたまりません。アリスが独りなのを見計らってか、ウェイドが近づいてきてわざと目の前でゴミを落とします。どうやら例の噂のせいでヘザーと破局し、そのことを根に持っているようです。迷惑しているのはアリスも同じなので、事実無根だと皆に話したかと尋ねるも答えを濁すウェイド。謝ることもなくそのまま彼は去りますが、アリスは地面に落ちたゴミの中にヘザーの名前が入ったリストバンドがあるのを見つけます。アリスはキッチンの清掃に移りますが、そこで窓越しに、木陰でキスするニーナとアダムを見つけてしまいます。唖然として眺めていると、ニーナはアダムの腰に顔を近づけ……。アリスも興奮してモップをお股に挟む魔女っ子スタイルになりスタンバイするも、そこでキッチンにおばあちゃんシスターが入って来たものだから、慌ててモップ掛けをしているように装います。シスターにはバレませんが、あまりにもわざとらしく誤魔化すので笑えます。ローラにニーナの件を興奮気味に話すと、ニーナに憧れているローラには信じてもらえず、「サラダした」のも本当のことで、神父のパソコンの件もあんたのせいでしょと責められます。いや、パソコンに関してはその通りなんですけどね(笑)。アリスのストレスはマックス状態です。腹いせにまた神父の部屋に忍び込み、キーボードの下にウェイドのリストバンドを置くことに成功。しかしまた足音が聞こえ、急いで身を隠すと現れたのは神父。そのままアリスが見ていると、なんと神父はポルノ動画を見始めるではありませんか! もう何が何だか分からない! アリスが外に出たところで、クリスと鉢合わせします。心配してくれるクリスに、色々なことがあって覚悟を決めたのかアリスは唐突に熱烈なキスをかまします。一瞬それを受け入れたかのように見えたクリスも、お股を押さえながら「男は電子レンジなんだぞ!」と取り乱しながら逃げて行ってしまいます(笑)。そしてその夜、キャンプファイヤーでニーナや神父、皆が神を讃える歌を歌っているのを見て、いよいよアリスはキャンプ場から逃げ出し、酒場に入ります。

成人してると嘘をつきワインクーラーを注文するアリスですが、キルコスの特製セーターを着ていたので素性が秒速でバレます(笑)。しかし店のオーナーのジーナの計らいでワインクーラーをもらい、そのままラッパ飲み。ジーナと話してみると、今は違うもののジーナも昔カトリックで、性的な欲望を感じる度に地獄に落ちるかもしれないと怯えていたことを知らされます。今から考えるとバカげた話だよね、と。Heiroは全く気づきませんでしたが、他の方の感想を読むとこのジーナのバーはレズビアンバーだったようです。ジーナが信仰を捨てたきっかけとしてサンフランシスコの話をしますし、彼女もレズビアンで、同じ境遇の人たちの居場所を作ったのでしょうか。アリスはジーナのバイクでキャンプまで送ってもらい、大学へ行くつもりなら州立でなく西海岸か東海岸の大学を探してみろとアドバイスを受けます。とここで、かねてより気になっていた「サラダる」の意味を聞き、やっとそれが何なのか知るアリス。あまりにくだらないその言葉に、2人して笑い合います。良いシーンです。

 

最終日。朝食時、いつものようにローラとではなく独りでいた女子の隣に座り話をしてみるアリス。彼女には日本に行き寿司を食べるという夢があり、アリスも寿司に興味を持ちます。その傍らで神父に呼び出されるウェイド。最後の集会で、ローラがパソコン事件の犯人はウェイドだったようだとアリスに伝え謝ってきます。アリスの悪評を流したのもウェイドで、ゲイなのを隠すためにヘザーと付き合っていたに違いないと(アリスはチャットを男性とやっていたので、ウェイドがゲイと疑われるのは分かる)。ウェイドと神父が戻ってきて、神父は生徒たちにこの4日間で学んだことを発表してほしいと言います。真っ先に手を挙げたのはウェイドで、欲望に屈し間違ったことをしてしまったと話しますが、どうせ神父にそう言うよう強いられたんだろうなー。それを受け、次に席を立ったのはアリス。「高校生活なんてクソ、皆秘密を抱えているんだからくだらない噂に流されないで互いを尊重しよう。それが神さまの望みだよ」と実に真っ当なスピーチをするアリス。Heiroはここで「パソコン事件の犯人は私です」と白状すると思ってたんですが、しませんでした(笑)。さすがアリス! アリスのスピーチは果たして皆に届いたのか。何はともあれ、波乱万丈の4日間は終わりを迎えます。

 

パパと教会に行った帰り、アリスは寿司を食べてみないかと提案するも、生の魚なんてと一蹴されます。大学に関しても州立に行くものだと思い込んでいるようです。別の日、学校でクリスに再会したアリス。非常に警戒されているものの、仲直りのハグを求めると正面は拒否されますがサイドハグはしてもらえます。そこでのクリスの嘘っぽい笑顔が最高です(笑)。クリスはとてもピュアでチャーミングなキャラとして描かれていますね。神父との告解で、アリスは例のポルノ動画を見たことを話します。「不埒なものを見てしまいました、神さまは許してくださるでしょうか?」ってな具合です(笑)。内心穏やかでない神父はものすごい数のお祈りの罰を与えますが、アリスはそれをすることなく自宅に直行、"タイタニック"のVHSを観ながら、ラブシーンでスカートの中に手を突っ込みます。

 

なかなか爽快で笑える映画でした! オフビートなコメディで、最近のデヴィッド・リーチタイカ・ワイティティ作品の「ほら面白いでしょ? 笑ってよ!」みたいなギャグがあまり合わなかった身としては、とても肌に合う作品で嬉しかったです。カトリックがテーマではありますが、アリスには非常に感情移入できます。クリスはひとまず置いといて、ニーナや神父は自分の性欲と信仰の対立にどう向き合ってるのでしょうね。映画を観ている分には、そのあたりの葛藤は感じられません。だからと言って、適当に信仰してるようにも見えないし……。真面目に悩んでいるアリスは十分立派です。結局ウェイドに罪をなすりつけたままではありますが(笑)、個人的にはウェイドが噂を否定しなかった理由は見栄だったと思うんですよね。性体験の数を自慢するのって若者にありがちじゃないですか。しかも、それでビッチ扱いされ評価が落ちるのはアリスだけです。ウェイドはヘザーと別れることになってはいますが、サラダ事件では周りから不届き者だとは言われていません。ここに男女間の不平等がありますね。なので、アリスがウェイドが犯人とされたままにしていることにはスカッとする部分があります。ただ、そのウェイドもゲイの疑いをかけられることになります。カトリックで同性愛は禁止ですから、ウェイドもこの先、謂れのない差別を受けるかもしれませんね。ほぼ全ての人間に性欲はあるのに、教義でそれが認められてないものだから、誰かをスケープゴートにして罰するんですよね。自分はそういう行為をしていても、他人がしていると許せず叩くわけです。ローラが責めるように「ウェイドはゲイだったんだよ」と言い始めた時は軽くホラー味も感じました。新たな獲物を見つけたんですから。「キルコス」が妬みを意味しているとすれば、大っぴらに性欲を肯定できている人に対する妬みのことを言っているのかもしれません。

これコメディだからまだ良いですけど、もっとシリアスな映画だと主人公が自分を責め続ける鬱な展開になることだってよくあるじゃないですか。日本だと、一般的には保健体育で自慰行為をしても罪悪感を抱く必要はないよと教わりますよね。罪悪感を植えつけるのは精神的に健康じゃありませんよ。カトリック教徒だってやることはやってるのに……。そういう意味では、告発に近い映画ではありますね。

面白いことに、アリスはキルコスの4日間の名称に沿った成長をしたと考えることもできます。「自問の1日目」では、自分を振り返って、ムラムラしたことを自分で認めることができません。アンケート用紙を塗り潰すのが象徴的ですね。「涙の2日目」では……神器の携帯を取り上げられますもんね(笑。強引か)。「受容の3日目」では自分の性欲を受け入れ、「生きる4日目」では人生の指針を手に入れます。ありのままの自分を好きになる話なのです。感動的じゃん!

オリジナルの短編から引き続きナタリア・ダイアーが主演なのも納得で、アリスは相当なハマり役です。彼女しか考えられなかったんでしょう。成人でも聖人でもない性人を実に魅力的にユーモラスに演じています。今後注目していきたい俳優のひとりになりました。アリスには是非とも卒業後は広い世界に旅立って行ってほしいですね。

この作品自体が、劇中のジーナのような存在です。学生にも積極的に見てほしい一作です。監督の人生にもジーナのような人がいたのでしょうか。それとも、いなかったから自分がジーナのようになりたかったのか……。この作品はネットが発展途上の時代の話ですが、情報過多のこの時代でも本質的な問題は変わっていません。日本でも、女性の性欲は社会的に十分認められてるとは言えないですから。性欲に振り回されるのはほどほどにした方が良いと思いますが、それで自分を責めることはありません。もし責めたくなったら、代わりにマシュマロでも焼きましょう。その方が良いでしょ? おいしいし。

 

 

★★★★★★★★  8/10点

 

Rotten Tomatoes  94%,67%

IMDb  6.1

この映画が受け入れられなかったあなたには、Heiroからひとつ、はい、スモア。