Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"Junior"(2011) Review!

少女は一皮剥けて大人の女になる。

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本編動画(2021/8/21まで無料で観れるよ!!)


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まさかこのブログで短編を扱う日が来るとは。でもジュリア・デュクルノーのまごうことなき1作目だから! 長編デビュー作"RAW 少女のめざめ"で多数の途中退場者を出し、長編2作目"Titane"で先日カンヌ国際映画祭にてパルム・ドールをかっさらったジュリア・デュクルノーの映像作家デビュー作だから! っていうか、"Junior"がカンヌの短編部門、"RAW"が国際批評家週間に出品され最高賞受賞、"Titane"コンペティション部門の最高賞を受賞するとか、ガチでアツくね? こんな理想的すぎるステップアップある?

言語はもちろんフランス語で、英語字幕しか付いてませんが、Heiroの低い英語力でも何となくいけましたので、ぜひぜひ。

heiro-chloe.hatenablog.com

 

 

あらすじ

13歳のお転婆ジュスティーヌは男子とばかり遊び、親からも友だちからも「ジュニア」と呼ばれていた。ある日、体調が悪くなったのをきっかけに、身体中の皮が剥け始め……。

 

スタッフ・キャスト

監督はフランスの至宝、ジュリア・デュクルノー

ジュスティーヌ役を演じたのは"RAW"でも主演を務めたギャランス・マリリエ。他。

 

 

20分くらいしかないのでササっと見れちゃいましたが、結構意外でした。大筋はカニバリズムのない"RAW"って感じですが、コミカルなテイストなんですよね。"RAW"はB級ホラーでありながらアート映画的でもあったんですけど、本作はそれよりライトな感じで。トレイラーを見る限りじゃ"Titane""RAW"っぽさを感じたので、今後も本作のようなコミカルさは見られないかもね。ギャランス・マリリエとはいえ、冒頭のジュスティーヌはガチで女を捨ててます。というより、まだいっぱしの女になってません。男の子にしか見えず、友だちと共に品のない言葉遣いをしています。トレイラーしか見たことないですが、ドイツの未公開コメディ映画"Feuchtgebiete"(英題"Wetlands")を思い出しました。

↓これね。(※ガチで下品です)


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同作の監督は日本でも公開された"帰ってきたヒトラー"のダーフィト・ヴネント。主演が(チョイ役とは言え)"ブレードランナー 2049"にも出てたカーラ・ユーリだったのでそのタイミングでの日本上陸を待ってましたが、とうとう来ませんでしたね。グギギ……。

 

ギャランス・マリリエはこれまでジュリア・デュクルノーの映画には短編・TV映画に関わらず全て出ており、TV映画"Mange"以外は全て役名はジュスティーヌ。その名前はフランスの色々と悪名高いマルキ・ド・サドの作品から引っ張ってるそうです。精神的にはどの作品のジュスティーヌも同一人物なんですかね。

 

ジュスティーヌと友だちのやりとりは見ていて可愛らしいですが、女性に対する敬意がありません。ジュスティーヌの姉は皆からセクシーだと言われてますが、姉とは全く違うジュスティーヌは女の子扱いされてません。姉妹仲もあまり良くなさそう。途中でジュスティーヌは胃腸炎でダウンしてしまいますが、これはまあ初潮のメタファーでしょうね。そこから本格的に身体中の皮がペリペリ……いやもっと生々しい感じ……もちょもちょ? と剥けます。まるで狼男……ではなく狼女? に変身するように。背中なんかバックリいきますしね。背中だけにか。痛くはないみたいなんですけどね。蛇とかの脱皮みたいな感じですよ。この皮の水分を含んだもちょもちょ具合は何なのかと思ったら、ボディ・ホラーの帝王デヴィッド・クローネンバーグに影響を受けてるそうです。ははぁ、どうりで。"Titane"は、自動車事故に欲情する人たちを描いたクローネンバーグのヘンタイ作"クラッシュ"の影響を受けてると言ってる批評家もいますしね。身体のつくりが変わっていく部分はホラー的に描きつつ、カットが変わると一気に雰囲気が緩くなったりして、ちゃんと緩急がついてます。やっぱこの監督、コメディも作れそうですね。

 

さて、文字通り一皮剥けたジュスティーヌはどうなったのか? アラ不思議、美少女になっていました。まあギャランス・マリリエですからね。とは言え、「あのジュニアが……?」とドキッとしている友だちと同じように、観客をドキッとさせることに成功してるのはさすがです。それだけ、同じ人に見えないんですよ。この時、いつもは厳しい担任の先生が「あのお転婆な子がねぇ……」みたいな顔でニヤッとするのが良いです。友だちはドギマギして、ジュスティーヌにこれまで通り接することができません。友だちの1人がいつものような敬意を欠いた態度でジュスティーヌの姉に接すると、初めてジュスティーヌは怒りそいつをボコボコにします(中身は変わってねーじゃん(笑))。そこで、姉がジュスティーヌに本当に愛情のこもった嬉しそうな顔で笑いかけるんですよね。この表情が実にたまらん。ジュスティーヌも女性としての誇りを持つようになったのかもしれません。この姉妹関係は"RAW"でも繰り返されますね。"RAW"のジュスティーヌは大人しくて、性格が真逆の姉アレックス(本名アレクシア)と最初は反目してますが、だんだん姉妹愛が強まっていきます。読んだことないですが、マルキ・ド・サド"美徳の不幸"の主人公であり、実に可哀想な人生を歩むことになる妹ジュスティーヌに対して、"悪徳の栄え"の主人公で、悪に手を染め上手く世の中を渡っていく姉の名はジュリエットといいます。本作ではジュスティーヌの姉に名前は付いてませんが、"RAW"で姉の名がジュリエットじゃなくアレクシアなのは何でなんですかね。あまりにも同じすぎるから変えたのかもしれませんが……デュクルノーにもお姉さんがいるのかな。"Titane"でもギャランス・マリリエの役名はジュスティーヌだし、アレクシアというキャラもいます。主人公です。女優は"RAW"のエラ・ルンプフからAgathe Rouselleに変わってますけどね。デュクルノーがこの2つの名前にこんだけ執着するのは何でなんだろうなぁ。そして主人公がジュスティーヌがアレクシアにバトンタッチしたのには何の意味があるのか? "Titane"観たら分かりますかねぇ。

 

ジュスティーヌは一番仲が良い黒人の男の子からキスされます。困惑する彼女に、彼は照れ臭そうに「You were ugly, now you're not. I don't get it!(お前ブスだったのに、今は違うよな。わっけ分かんねえよ!)」と言います。何この甘酸っぱい話! そしてその後、いつも通りじゃれあいながら家路を行くのです。すっげー爽やか。"RAW"もそうでしたが、カミング・オブ・エイジものだけに、やはり青春映画なんですよね。確かスイス製の"ブルー・マインド"も同じような話だった気がします。あっちはあんまりハマらなかったんですけどね。

 

短編ですが、"RAW"に繋がるエッセンスはすでに含まれています。デュクルノーがこの次に撮った"Mange"の主人公は過食症の設定のようですが、「mange」とは「食べる」という意味なので、"Junior""Mange"が合わさって"RAW"という形に結実したのかもしれません。"Junior"色んな意味で面白かったです。皆も今のうちに観よう!

 

 

★★★★★★★☆  7.5/10点

Rotten Tomatoes  N/A,N/A

IMDb  6.6

はよ"Titane"公開しいや……。