Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"名探偵コナン 時計じかけの摩天楼"(1997) Review!

自分の心には正直に。 

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公式トレイラー
何でいきなり"名探偵コナン"なのよ、って話ですが、最近テレビシリーズを最初から追いかけるのを始めましてね。最新話が1000話超えてるのでまさに千里の道だなと最初思いましたが、もう600話以上観終えました。大変だけど楽しい。劇場版も追いかけなければと思い、ついに手を出してしまいました。十何年ぶりに観直したことになりますね。
 
 
あらすじ
有名な建築家、森谷帝二のパーティに招かれた新一の代わりに、小五郎を代理人として出席したコナンら。それからしばらくして、大量の爆薬が盗まれる事件が起こる。新一宛てにその犯人らしき人物から連絡があり、ヒントを元に爆弾を見つけなければ人が死ぬと犯行を予告されるが……。
 
スタッフ・キャスト
監督は"コナン"を初期から作り続けてきたこだま兼嗣
コナン役は高山みなみ、小五郎役は神谷明、蘭役は山崎和佳奈のお馴染みのキャストが務めた。
 
 
子どもの頃よく"コナン"観てたんですよ。主に原作だけどね。もちろんトリックは解けないし、説明されてもあんまピンと来ないこともしばしばだったけど(今もそれは変わらず)、それでも追いかけ続けたくなる魅力があります。こう言っちゃ元も子もないですが、ファンの多くはトリック云々よりもキャラクターの魅力にやられてるんじゃないですかねえ。本当にメインキャラは皆個性があって、それぞれカッコ可愛いんですよね。コナンは普段子どもぶってあざといのに推理が始まるとキレッキレだし、蘭は超良い子なのに怒ると空手で襲いかかるし、小五郎のおっちゃんはいつもはボケボケなのに身内が危険にさらされれば目つきが変わります。そんなキャラたちのやり取りだけで永遠に見てられるんですよね。声優のキャスティングもピッタリすぎだしね。ラブコメ要素に関しては、はっきり言うとゴールは決まってるのに展開がすっげー遅いんですが、"コナン"の場合は逆にそれが良くて、やきもきしながらキャラたちを見守るのが楽しいんですよ。実際、"コナン"は本当は子ども向けじゃないんじゃないかと思いますよ。一番最初の事件では首チョンパメラゾーマしてますからね(笑)。エラい人数の人が死んでるのに、ゆるいラブコメと両立してるとか、クレイジーすぎるでしょ(笑)。本当にポテンシャルが高い……とか何とか言いつつも、比較的初期の話しか知らないまま何となく"コナン"を観ない時期が続き……。こないだテレビシリーズのロンドン編観たら新一が蘭に告白めいたことをしてましたが、それ放送されたの10年前と知って卒倒しそうになりましたね。もうここまで進んでたのかと! 逆に言うとそうなるまで現実世界では15年ほどかかってますがね……(笑)。作中では多分半年くらいですが。
1000話もあるとさすがに全話面白いとは言えません。キャラの関係性目当てで観てる身としては、事件が起こって解決するだけの回はちょっと退屈になりがち。少しでも関係性に変化・進展があれば良いんですけどね。まあアニメオリジナル回だとメインキャラの深掘りは中々できないでしょうが……と思いきや。
実は、アニオリ回含め、神回になりやすい設定があります。それは爆弾。アニオリ屈指の神回は150話、151話の「自動車爆発事件の真相」です。これは若き日のおっちゃんが家庭教師をしていた時の教え子が出てくる話で、かなりエモいエピソードになってます。おっちゃんが身内が関係している事件なら本気になる設定を活かしつつ、人間関係のドラマを引き出しています。大体のアニオリ回ではその時初めて出てきたキャラが死んだり疑われたりするわけですが、それって何の感慨もないんですよ。しょうがないけどね。まあ、この教え子ってのも原作にはいないし初登場なんですが、ちゃんと回想シーン入れてくれますからね。でも、本当に良い回ですが、爆弾回としてはむしろ例外なんですよ。爆弾回の醍醐味は、本当に主要キャラが死ぬかもというスリルが味わえる所。この回はそういうスリルは全くないので、例外なんですね。
次の神回は304話「揺れる警視庁 1200万人の人質」です。この回はスペシャルですが、何話か前からの連続エピソードになってます。この時に、すでに死んでいる松田刑事というキャラが登場し、警察側、特に佐藤刑事との関係性が深掘りされます。ストーリーも実にエモーショナル。実際に松田刑事は爆弾犯に爆殺されているので、同じ犯人に狙われる主要キャラが死ぬ可能性が(まあ本当はないとしても)1%くらいあるような気になるんですね。実際コナンはかなり追い込まれますし。高木刑事と佐藤刑事のラブストーリーにも進展がある、ファン必見の回です。
もう一つの神回は471話の「レンタカー制御不能!」です。このエピソードでは、コナン一行が乗ったレンタカーに時速20kmを下回ると爆発する爆弾が取り付けられ、高速道路をノンストップで走りながら犯人を捜さなければならないという実にサスペンスフルなストーリーが見られました。キアヌ・リーヴス"スピード"的な設定も面白い部分ですが、コナンや蘭だけでも逃がそうとするおっちゃんが父親の顔になってて(初めてか(笑)?)、グッと来ましたね。さて、ここから本題(長い)。
 
本作以降、劇場版では爆弾も主要キャラの一人になったんで(笑)、残念なことにどんどんスリルは失われていきますが、記念すべき第1弾がこのクオリティというのには改めて驚きました。傑作ですね。Heiroは昔から劇場版で素晴らしいのは第7弾の"迷宮の十字路"までと思ってきましたが、その中でも最高かもね……。第2弾以降もこれから観直して再評価していくつもりなんで番狂わせがあるかもしれませんが、"迷宮の十字路"以降は派手さを売りにしてるようなイメージです。その点、本作は犯人による追い込みが容赦なく、キャラ同士のやり取りも生き生きしています。当時の絵柄でぬるぬる動くのも感動ものでしたね。もちろん今の絵の方が綺麗ですが、パラパラマンガの原理に対してセンス・オブ・ワンダーを感じました。少しずつ違う絵が連続して流れるとアニメーションに見えるわけですもんね。当たり前っちゃ当たり前のことですが、思わず目を奪われます。満月をじっと見つめてしまうように。不思議な魅力があります。電車を狙った爆弾は最初"スピード"的なものに思われますが、実は日光が当たらない時間が一定の範囲を超えると爆発する仕掛けだったというのも良い捻りですね。
 
一応子ども向けだからなのか、犯人はすぐに分かります。シャーロック・ホームズの宿敵である、ジェームズ・モリアーティの名をもじった森谷帝二なるキャラが出てくるからではありません。犯人のシーンではその特徴的なヒゲまでご丁寧に映されているからです(笑)。後、森谷帝二が犯人なのは彼自身の失言によって皆にバレます。そうやって観客に目配せしなければ森谷帝二に恨みを持つ誰かの犯行に見えますから、ミステリーとしては正直甘いとこがありますが、爆弾によるサスペンスで物語をぐいぐい引っ張っていきます。彼が逮捕されても、すでに仕掛けられた爆弾の件は解決しませんし。森谷帝二は非常にアーティスティックな人物で、病的にシンメトリーな建築にこだわっています。「美学」です。過去、色んな事情でアシンメトリーに作らざるを得なかった自分の建築物を次々に爆破したのは、"コナン"の中でも最も俗っぽさから離れた「崇高な」動機によるものです。そういう意味でも、最初の劇場版のラスボスとしてふさわしいですね。アートは何でもそうだと思いますが、完成後はアーティストの手元を離れ、人々の評価にさらされます。評価は一人歩きするので、アーティスト自身が出来に自信を持てない作品でも、それに反して評価されることもあるでしょう。絵とか彫刻なら規模的には壊して作り直すこともできなくはないでしょうが、建築物はそれが一番やりづらいアートと言えるかもしれません。森谷帝二の建築はシンメトリー、アシンメトリーに関わらず世間で評価されていますが、彼は気に食わない習作を自分の手で破棄しようとしたのです。建築物相手なので爆弾を用いることになるのは必然ですが、時限爆弾なので森谷帝二が捕まっても一人歩きする存在なのが対になっていて面白いですね。悲しいことではありますが、爆弾もまた森谷帝二にとってある種のアートだったのかもしれません。爆弾には色んな工夫が凝らされているし、「芸術は爆発」ですし。青山剛昌が描きたかったテーマなのかどうかは知りませんが、一人歩き問題はある意味アーティストにとって避けられないものです。発表した瞬間から、そのアートはある意味アーティストではなく皆のものになります。そうなれば中々作品を修正することはできません。まあ、"スター・ウォーズ"の修正を繰り返すジョージ・ルーカスみたいな人もいますが……(笑)。
 
蘭の命がかかったラストの爆弾解体シーン。よくある赤と青のコードのどっちを切るか問題が勃発しますが、これは森谷帝二のトラップなので、「リアリティがない!」と憤慨する必要はないでしょう。蘭から赤がラッキーカラーと聞かされた森谷帝二は、赤を切ると爆発する爆弾を仕掛けました。コナンも、途中までそれに気づかず蘭に全てを託します。結局、蘭はコナンの助けなしで正解の青を切ることに成功。このコード切断のシーンが意地悪で、極度の緊張状態を表すように画面がモノクロになるのは良いんですが、2本のコードが交差するカラーのシーンからモノクロのシーンに映ると、パッと見、赤を切ったようにしか見えません。実は2つのシーンで微妙に映ってる角度が違うんですよね。こういう所でも観客の予想を裏切ろうとしてくるんだなぁと、今回大人の目で改めて観てしみじみ思いました(笑)。ラスト、コナンに何故赤を切らなかったのかを尋ねられた蘭の「だって……切りたくなかったんだもん。運命の赤い糸は、新一と……繋がってるかもしれないでしょ?」という返しが本当に本当に秀逸!! ベッタベタのベタなセリフかもしれませんが、聞くだけでウルウル来ます(こんなセリフがあるのに告白はこの何年も先(笑))。このセリフ思いついてから話を組み立てたんじゃないのと思うほど。蘭が新一に頼らず最大の難関を乗り切るのも良い。"コナン"は事件解決後に、それまで残されていた小さな謎の答えが明かされることがよくあります。それは大体キャラの関係性についてのものなんですが、非常に秀逸なツイストがかかっている場合が多いです。青山剛昌はストーリーの構成力がハンパなく優れてます。ガチで。
 
かなり緊張感のある映画ですが、元太が「緊急事態」という言葉の意味を知らなかったり、おっちゃんが白鳥刑事を犯人と疑ったり、爆弾を探すコナンが注文もしないのにファストフード店に入るのを店員のお姉さんが不審そうに見ていたりと、ギャグもほど良くあり緩急がついてて素晴らしいです。おっちゃんは身内が巻き込まれた事件なのにあまり活躍しませんが、終盤では蘭が助からないかもと茫然自失になる珍しいシーンがあります。劇場版では毎作恒例となっているエンドクレジットでの実写シーンですが、アニメの世界から現実世界への帰り道のようですごく心地良かったです。昔は実写に対して大した感想もなかったですが、十何年ぶりに観直してみるのはやはり面白い体験ですね。Heiroのイチオシキャラである灰原哀がまだ出て来ないのが玉に瑕ですが(笑)、古いからと言って敬遠するのはあまりにもったいない一作。テレビシリーズからも独立した話なので、いつ観ても問題ありません。ぜひ観て!!
 
 
★★★★★★★★☆  8.5/10点 
Rotten Tomatoes  N/A,N/A
IMDb  7.4
そういや、蘭の空手シーンなかったな!