Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"名探偵コナン 14番目の標的"(1998) Review!

ペロ……こ、これは……大人の味わい!!!

(※"時計じかけの摩天楼"のネタバレをしています)

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公式トレイラー


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前作の"時計じかけの摩天楼"がアホほど面白かったので、続けて観てしまいました。まあ幼い頃に観た思い出補正も入ってるかもしれませんが、これも前作に勝るとも劣らない傑作!! ご存じでしょうが、タイトルの読み方は「14番目の標的(ターゲット)」です。ここから"コナン"映画恒例の「〇〇と書いて××と読ませる」タイトルが続いていきます。

heiro-chloe.hatenablog.com

 

 

あらすじ

目暮十三警部が何者かにボウガンで襲われた。続いて妃英理弁護士が毒入りチョコに倒れる。現場にはトランプを示唆する物品が残され、名前に数字が入った者らが13からエースに向けて順に狙われていることが判明。小五郎の関係者が襲われているため、一連の犯行は小五郎に恨みを抱いた者に思われた。コナンらが犯人の凶行を止めようとするも、死のカウントダウンは続いていく……。

 

スタッフ・キャスト

監督は"コナン"を初期から作り続けてきたこだま兼嗣
コナン役は高山みなみ、小五郎役は神谷明、蘭役は山崎和佳奈のお馴染みのキャストが務めた。

 

 

いやあ、本作も本当に素晴らしいですね! 名前の順に殺されていくという設定で一定の面白さがまず担保されてます。目暮警部と白鳥刑事の下の名前が十三と任三郎になったのは本作の設定に合わせたかららしいですが(笑)、主要キャラも結構名前に数字入ってて、後から考えたのに中々良い設定だと思いました。英理さんの苗字である妃はクイーンで12、阿笠博士は名前の博士(ひろし)の士の字を分解すると十一で11と。まあ博の字には十の字も入ってますが…(笑)、しかし、阿笠博士って今更ながらフルネーム書くと阿笠博士博士(あがさひろしはかせ)になっちゃうんですね。ひどい(笑)。小五郎のおっちゃんは5で、新一が1。偶然にしてはよくできてますよね。白鳥刑事の任三郎だってちゃんと古畑任三郎から取ってるんだから、そんなに無理矢理じゃないし("コナン"の主要キャラは既存の作品に登場する探偵などの名前をもじったものが多い)。十三は知らん(笑)。

 

蘭が見る、英理さんが撃たれる悪夢から物語は始まります。トラウマとまでは言えないまでも、これまで全く思い出せなかった記憶のようで、かなりシリアス。やはり、単に子ども向けとは思えない暗さがあって、初期の劇場版は良いなあ。英理さんは劇場版初登場ですね。Heiro的にはすっぴんの英理さんの方が好きですが、本作ではちゃんとそれが拝めます。そうそう、"コナン"って親世代の恋愛模様まで描かれてるのがレンジ広くてすごいですよね。しかもそれも魅力的なサブエピソードとして展開させていくし。目暮警部がボウガンで腹部を撃たれる冒頭も結構ショッキングで良いんですが、奥さんのみどりさんが出てこないのは減点ポイントと言わざるを得ません(笑)。今では上品な美人になってますが、酔うと元ヤンキーの口調が戻るギャップキャラです。欲を言えば、目暮警部とのラブストーリーを過去に遡ってやってもらいたいですが、本編にはほとんど登場しないレアキャラですね。本作では目暮警部が帽子を脱がない理由についてははぐらかされてますが、実はみどりさんとの馴れ初めに関わるものです。後にテレビシリーズの方で登場します。

 

"時計じかけの摩天楼"より、少しスケールアップしましたね。コナンがヘリを操縦するシーンがあったり、アクアクリスタルという娯楽施設が主な舞台になってたりします。それでも本作はファンから「地味」と言われがちのようですが……個人的には全く気になりませんでした。アクアクリスタル行きたい。ヘリ操縦に関しては違いますが、本作はいわゆる「ハワイで親父に」発言が初登場した悪名高い作品でもあります(笑)。それで今回の事件も解決するんですが、あまりにグッとくるシーンになっているので不問とします。

 

今観直してみると、結構"時計じかけの摩天楼"と共通した点があります。いつもは、犯人の外見は黒く塗りつぶされてますが、犯人が手に持った短剣を見つめるシーンで、刃に犯人の顔がちゃんと映っています。どう見ても沢木さんです(笑)。前作でも、犯人が森谷帝二なのは観客に丸分かりな演出になってました。また、沢木さんの犯行動機は「完璧なソムリエたるべし」という、それ自体は崇高な思いを汚されたためです。バイク事故とストレスから引き起こされた味覚障害によってね。彼も森谷帝二と同じく、自らの美学に基づいて行動しています。沢木さんはファンから揶揄されがちなキャラですが、とても味わい深い人物だと思います。元々は非常に上品で温厚そうな人物だったのに、天職であるソムリエの道を突然絶たれ絶望、しかも巷にはワインを適当に扱う者が蔓延っている……。ワインを愛しながら、愛し続けることができなくなった沢木さんを追い詰めるのには十分すぎます。そりゃ、殺人を正当化するに足りる理由じゃないですが、もっとしょうもない動機なんかいくらでもありますよ。沢木さんは復讐を終えたら自殺する気でしたし、自暴自棄になっている人をまともな倫理観でジャッジするのもナンセンスです。古い知り合いの毛利夫妻や蘭まで手にかけようとするのはもちろんやりすぎですが、本人の意に反して生かされ続けることになってしまいましたからね。彼にとっては何よりも辛い罰でしょう。

前作に続いて、爆弾も登場。しかし今回はサブキャラです。今回の主役は水ですね。前作が"タワーリング・インフェルノ"なら本作は"ポセイドン・アドベンチャー"と言えますかね(船なら"水平線上の陰謀"とかの方がそれっぽいですが(笑))。溺死の可能性がある映画のシーンって、見てるこっちも息苦しくなりませんか(笑)。そのシチュエーションだけでかなりサスペンスが生まれます。水中に取り残された蘭を助けようと潜ったコナンが逆に溺れ、蘭に口移しで空気をもらう(ファーストキス! ……だよね?)シーンが最大の見所……の1つです。美しい。蘭は普段は可愛い顔してますが、微笑んだ時に目が細長になって美人度が跳ね上がります。このシーンでもそれが拝め、蘭好きにはたまらんと思われます。蘭は良い子すぎるので、ヒロインとして危な気ないのが一番人気になりきれない理由かと思っておりますが、灰原哀が一番好きなHeiroでもこのシーンはドキッとなりますよ。

蘭を人質にとった沢木さんとの最後の対峙。拳銃を手にしたコナンが蘭に銃口を向ける際の、カメラ2回転ショット。圧巻ですね。素晴らしい。弾を蘭の太ももにかすらせ、沢木さんが蘭を手放さざるを得なくします。ここが冒頭の蘭の悪夢の元になった、英理さんがおっちゃんに撃たれた過去のリフレインになっていて、実にアツいです。最大の見所その2ですね(これが「ハワイで親父に」シーンなんですが(笑))。新一が言った「事実が真実とは限らない」というセリフの真意が分かります。「大切な人を撃った」という事実は変わらないのに、その見え方が全く変わる。言うなれば、捉え方が360°変わったのです。180°の間違いじゃないですよ(笑)。元々はガッツ石松の言い間違いとか聞いたこともありますが、考えてみればなるほど、よく出来た表現ともとれます。スタートとゴールの見た目は一緒だけど、ぐるりと周りを見回した結果最初に向いていた方向に戻ったという意味です。進路の話で例えると分かりやすいですね。最初は何の考えなしに親と同じ職業に就こうとしてたけど、様々な経験をした結果、やはり親と同じ職業を選ぶ、みたいなことです。結果は変わりませんが、過程が全く違います。ストーリーの中で、同じものでも一度目と二度目で印象が変わるというのは、優れた伏線と言えると思いませんか。新一とコナンも360°違う存在と言えるでしょうね。幼い頃の新一は「鎮めよ」の読み方が分からず「ちんめよ」と読んでいましたから……(笑)。今のコナンは人生2周目ですからね。

ここまで見せ場続きで恍惚としてる観客を、本作はさらに天へ誘います。序盤で、歩美がやっている占いゲームで、コナンには「Aの予感」という結果が出ます。Aはキスのことですが(古い……(笑)、Heiroも後付けで知った知識です)、これが蘭との水中キスの伏線だったのです!! しかも、蘭が新一を想って握りしめていたカードはスペードのエース(A)……。上手く行きすぎてるわ……。歩美には悪いけど……(笑)。最後にも一捻りあるわけですよ。さすが"コナン"ちなみに、本作へのセルフオマージュなのか、テレビシリーズでコナンが新一に戻る190話あたりの「命がけの復活」編で、新一は学園祭の演劇に出てくる黒衣の騎士スペードの衣装で登場します。

 

タイトルの「14番目の標的」とは、言葉では説明されませんが蘭のことでしょうね。全部を説明しないあたりも上品。"時計じかけの摩天楼"の長所を引き継ぎつつも、ちゃんとフレッシュな部分も見せてくれます。蘭は普段、おっちゃんに対して呆れることはあれど関係は良好なのに、本作ではおっちゃんが英理さんを撃ったことを思い出し関係にヒビが入ります。また、"コナン"は長く続いてるだけあって色んな題材を使ってエピソードを作りますが、ここまでソムリエにフォーカスしてるのも大人向けっぽくて良いですね。Heiroはお酒に全く興味ないですが、本作観てると飲みたくなってきましたよ。沢木さんがグラスを回す仕草(スワリングというらしいですね)を長く見せてましたし、結果的には殺人犯でしたが、ソムリエに対する尊敬の念も生じました。"時計じかけの摩天楼"では東都鉄道の面々のプロフェッショナルな仕事ぶりが描かれてましたが、サブキャラの職業がリスペクトをもってフィーチャーされてるのは非常に好感が持てますね。また、音楽も無駄に垂れ流されることなく、ここぞというシーンでバシッと決めてくれるのがクールですね。シリアスなシーンはBGMなしで緊張感を演出しているのが、子ども向けとは思えない味わいを生むんでしょう。

あ、後、身内が巻き込まれた事件の法則で、おっちゃんが沢木さんに一本背負いを食わらせるカッコ良いシーンがあります。こういうシーンも前作にはなかったね(笑)。

 

ツッコミ所はあるんでしょうが、全く気にならないほどのめり込んで楽しめました。そういう勢いがある作品って、良い作品ですよね。ラストには毛利夫妻のしょうもない別居の真相が明らかになり、スカッと終わるのも後味悪くなくて素晴らしい。おっちゃんとしては脚を撃たれた英理さんに休んで欲しかっただけでしょうが、英理さんは「せっかく脚痛い中ご飯作ってあげたのに!」と激怒。まあ……これからも2人でのろけ続けてくださいよ(笑)。

 

 

★★★★★★★★☆  8.5/10点

Rotten Tomatoes  N/A,N/A

IMDb  7.4

あっ、今回も蘭の空手ない!!