Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"オキシジェン(Oxygène)"(2021)

クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)」の中にもOが2つ。

(※"プレステージ""エリザベス∞エクスペリメント"のネタバレをしています)

 

公式トレイラー


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意外にも超高評価だったんで観てみましたら、中々捻りがきいてて面白かったですよ。そんなにアレクサンドル・アジャ作品は観てきてないですが、本作で「この人クリストファー・ノーラン好きなのか?」と思ってしまいました(笑)。

 

 

あらすじ

気がつくと、女性は医療用らしきポッドに閉じ込められていた。何も思い出せず、反応してくれるのはAIのミロの声のみだが、ロックを解除するにはパスコードが必要。女性は酸素が底を突く前に記憶を取り戻し、脱出することができるのか?

 

スタッフ・キャスト

監督は"クロール -凶暴領域-"アレクサンドル・アジャ

主演は"英雄は嘘がお好き"メラニー・ロラン。ミロの声を担当しているのは"サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜"マチュー・アマルリック。他。

 

 

タイトルは"オキシジェン(Oxygène)"ですが、最初に出てくるタイトルロゴは酸素の「O2」になってます。シャレてるねぇ。しかも、その背景は迷路。クリストファー・ノーラン"インセプション"にも迷路は出てきますが、迷路のロゴと言えばノーランの映画制作会社シンコピー・フィルムズ(Syncopy Films)ね! 名前の由来は「syncope(失神)」。酸素がなくなれば失神しますね。本作のシチュエーションで失神したら命はありません。メラニー・ロラン演じる女性はこれまでの記憶がなく、事の次第を思い出さないといけません。ラテン語で「思い出せ」を意味する語は「memento(メメント)」です。"メメント"。後半、女性は実はウイルスによって住めなくなった地球を飛び出し、別の地球型惑星に移住して人類を存続させるためのプロジェクトに参加していたことが分かります。これは"インターステラー"。さらに終盤、女性はこのプロジェクトの中心人物だったエリザベット・ハンセン博士のクローンだったと判明。"プレステージ"には、人間をコピーできる機械が登場します。まあクローンみたいなものですよ。記憶も引き継いでいます。エリザベットの夫のクローンも新たな惑星に向かっており、ラストで2人はその惑星で運命の「出逢い」(厳密に言えば再会ではないからね)を果たします。愛は時空も、個体をも超えたというわけ。「愛は時空を超える」は"インターステラー"のテーマでした。ついでに、本作はタイムリミットを酸素の残量にしてサスペンスを作り上げていますが、そのためにエリザベットの行動で残り時間が変わります。普通のタイムリミットは「後1時間で爆発する」とかですから、本作の時間はある意味伸び縮みしています。時間をおもちゃにしてる人といえばやはりノーラン。っていうか、何でこんなにノーランのフィルモグラフィのモザイクみたいな映画なんだ(笑)! 偶然でしょうが、偶然にしては符合する点が多くて面白いです。だからと言って、別に映画としてノーラン作品に似てるわけではないです。

 

こういう閉所で終始物語が展開する映画では他に、ライアン・レイノルズ"[リミット]"がありますね。それは観てないけど、似た設定の"ブレーキ"は昔観ましたね。全然覚えてないけど。後はトム・ハーディ"オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分"とかかな。役者一人で物語を引っ張っていかなきゃいけませんから、芸達者をキャスティングすることが最優先事項です。本作のメラニー・ロランは実力は申し分ないですし、ジャン・デュジャルダンと共演したコメディ"英雄は嘘がお好き"はHeiroの2019年ベスト10に入るくらい好きだったので、このキャスティングは嬉しかったですね。しかも"英雄は嘘がお好き"での役名もエリザベットだったんですよ(関係ない)。そういや、アビー・リー主演の"エリザベス∞エクスペリメント"もクローンの話でしたが、本作は「エリザベット∞エクスペリメント」ですね(笑)。エリザベットはエリザベス(Elizabeth)のフランス語読みですし。あっ、∞のマークもOが2つ……(笑)。ちなみに、製作総指揮のフランク・カルフンはO2ならぬ"P2"という映画を撮っています(ガチで関係ない)。ギリシャ文字のΟ(オミクロン)の次の字がΠ(パイ)なだけに、ダーレン・アロノフスキー"π"のように意味のない深読みをしてみました。クリス・プラットジェニファー・ローレンス"パッセンジャー"も似たシチュエーションの作品でしたが、ストーカーがいないとまともな映画になりますねえ……(笑)。本作の宇宙船は"パッセンジャー"のアヴァロン号に少し似てます。アヴァロン号だけは良かったなぁ。アヴァロン号だけは……(笑)。

 

本作は閉所恐怖症、先端恐怖症、集合体恐怖症の人にはツラい映画になっております。ずっとポッドの中だし、隙あらば安楽死用の薬剤を打とうと注射器が迫ってくるし、無数のポッドが映し出されるシーンがありますからね。でも、エリザベットから離れ、やっとカメラがポッドを出て宇宙船の全景が映り、それが人間の眼の形に似てるなと思ったらエリザベットの眼にオーバーラップして戻るまでの流れは、音楽も相まって本作のハイライトと言えるでしょう。ここは一見の価値あり! このシーンに入る直前、ポッドから宇宙空間に脱出し、顔面が破裂して死んだ他のクローンがバーンと大写しになるジャンプスケアがありますが、アレクサンドル・アジャ、偉ぶってませんね(笑)。冒頭エリザベットがコールドスリープから目を覚ます場面は、昆虫の羽化のような、非常に気味の悪い映像になってました。映画のルックはスタイリッシュですが、あくまでB級なテイストを貫きます。医療用ポッドで地下に埋められてると思ったら、実はコールドスリープ用で空の向こうだったし、鎮静剤を打つという行為が中盤とラストで全く違う意味になるところなど、脚本もよくできてましたね。

 

ところで、酸素って太古の昔には生物にとって有害だったんですよね。それを克服したからこそ現代の生物、ひいては人類が存在しているわけです。作中で、AIのミロがここぞという時に「その言葉を理解できません」とポンコツ化したり、ネットが不安定になったりと現代の日常的なイライラポイントが描かれてましたが、22世紀が近づいても人類はその悩みを克服できないまんまなんですねぇ……。それじゃスターチャイルドにはなれないぞ!

 

 

★★★★★★☆  6.5/10点

Rotten Tomatoes  92%,79%

IMDb  6.5

ノーランに見せたら喜ぶんじゃないですか。あ、ネットが重要なファクターとして出てくるから怒るか(笑)?