Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"ベイビーティース(Babyteeth)"(2019)

人は死を目前にしてもなお、大人の階段を上る

 

公式トレイラー


映画『ベイビーティース』予告編【2021.2.19(fri) ROADSHOW】

 

設定自体はいわゆる難病モノではあるけれど、だからと言って敬遠するのはあまりに惜しいぞ!

 

 

あらすじ

病を抱えるミラ。ある日、死をも恐れないドラッグディーラーのモーゼスと出会い、ミラは彼に惹かれていく。ミラの両親はモーゼスを良く思わないが、ミラが望むのであればと徐々に受け入れていく。しかし、無情にもミラの死期は着実に近づいていく……。

 

スタッフ・キャスト

監督は、これが長編デビューとなるシャノン・マーフィ。

ミラ役には"ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語"のエリザ・スカンレン。モーゼス役には"シークレット・オブ・ハロウィン"のトビー・ウォレス。ミラの両親役は"ババドック 暗闇の魔物"のエシー・デイヴィス、"ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー"ベン・メンデルソーンが演じている。他。

 

 

難病モノなのにこの軽やかさ。Heiroが大好きな"ぼくとアールと彼女のさよなら"には負けるものの、ちゃんとコメディの要素があるのがエラい。それぞれキャラクターも立ってて良かったね。

エリザ・スカンレンは少女らしい可愛さがあってチャーミングでした。特にフレッシュだったのは劇中に数回あるカメラ目線(予告にもある)ですね。第四の壁破りと言えばそうですが、こちらに向かってセリフは一切喋らず、意味ありげな目配せをするだけ。この演出、天才的だと思いましたよ。この塩梅のやつはありそうでなかったのでは? もちろん"デッドプール"とか"エノーラ・ホームズの事件簿"みたいにたくさん喋ってくれても全然結構なんですが、目配せだけでも十分機能するんですね。むしろこっちの方がドキッとしたかも。ミラの「好きになっちゃったかも」みたいな視線がね……そりゃ頬が緩んじゃいますって! 普段はそんなこと言ってる甘酸っぱい系の作品には見向きもしないんですけど、これにはやられましたわ。ところで、「トーマサイン・マッケンジー問題」に警鐘を鳴らす者としては、「エリザ・スカンレン」じゃなくて「イライザ・スカンレン」と呼ぶべきだろうと思うわけですが、すでに双方の検索結果ヒット数は天と地ほどの差がついております。いやはや。これは長い物に巻かれとくべきか。7月に公開が決まった"17歳の瞳に映る世界(Never Rarely Sometimes Always)"のEliza Hittman監督も「エリザ・ヒットマン」と呼ばれることが多いんですよねえ。Netflix"ブルックリンの片隅で"(未見)という作品も配信されてますが、「エリザ・ヒットマン」表記なんだよなー。"シェイプ・オブ・ウォーター"サリー・ホーキンスが演じていたキャラクターはちゃんと「イライザ」になっていたのに! 昔からローマ字読みに近い形でそう訳されることが多いのかと思ったら、"マイ・フェア・レディ"オードリー・ヘップバーンの役名はちゃんと「イライザ」でしたよねそういえば。英語圏では「イライザ」読みの方が正しいんではないでしょうか。とささやかな反抗の意志をここに記しておきます。だって「イライザ」の方が響きが可愛いんだもん。

 

次にトビー・ウォレス。日本のヤンキー中学生がやってそうな襟足長い系メンズですが、この見た目洋画では結構フレッシュじゃないですか? ドラッグディーラーでヤク中で、ヤクを求めて三千里、知り合った後にミラの家に泥棒に入るようなロクでも七でもないバチ当たりですが、何か憎めません。目が純粋そうだからかね。ミラと初めて会った時、ミラの鼻血を躊躇せず汗びっしょりシャツで拭いてあげてたし。初対面のミラの髪をベタベタ触るけど、何かスケベっぽくなんないんですよねぇ。そこは邪気のない子どもっぽい感じで。この人すごい良かったですよ。

で、ミラ母役のエシー・デイヴィス。この人は"ババドック"でアレなことになるシングルマザーを実に危ない感じで演じてました。今回は躁鬱的なキャラクターで、気まずい笑いを提供してくれてましたね。"もう終わりにしよう。"トニ・コレット感ありましたね。ほんと美魔女でした。ちなみにこの人の実際の夫は、マイケル・ファスベンダーマリオン・コティヤール"マクベス"とかマイケル・ファスベンダーマリオン・コティヤール"アサシン クリード"とかのジャスティン・カーゼル監督です。

そしてミラ父役のベン・メンデルソーン。世界で一番「メンデルスゾーン」と名前を間違えられる人ね。この人はやっぱり"アニマル・キングダム"とか"ロスト・リバー"とかのイメージですよね。サイコね。でもこういうコメディにも合うんですねえ。ご近所さんが飼ってる犬と同じ名前という情けなさ全開ギャグにもピッタリはまってます。しかしそれと矛盾せず良い父親にも見えるんですよ。名優ですねえ。

 

色々ありつつもやはりミラは死んでしまうんですが、そのあたりも「泣けよホラぁ!」みたいな感じでなく上品でしたね。ミラから、"カッコーの巣の上で"ジャック・ニコルソンがされたように、枕で窒息死させてほしいとモーゼスは頼まれるところはどう感じるべきなのか分からなくなりました。実際はそこからミラにとって最初で最後のラブシーンになり、皆が寝ている間に息を引き取るんですが。全編に渡って、時系列に沿いつつ時間は飛び飛びのミニエピソードたちで構成された、短編集のような形をした本作。一番最後のエピソードだけ、少しだけ過去に戻っていましたが。皆の思い出を繋いで作られたような映画でしたね。最終的には、自宅含めどこにも居場所がないモーゼスを両親に託し、ミラは逝ってしまいました。家族やモーゼスとぶつかってばかりでしたが、ベイビーティース(乳歯)も抜け、死ぬ前でさえ自分でなく他人のために動くという誰よりも大人な選択をして死にました。残された人の気持ちはまとまらないままなのに。短い生ではありましたが、ミラはきちんと生きた証を残せたでしょう。

 

 

★★★★★★★  7/10点

Rotten Tomatoes  94%,83%

IMDb  7.2

誰よりも速いスピードで生きている人には、誰も追いつけないんですよねえ……。切ない。