"スポンティニアス(Spontaneous)"(2020) Review!
まだ眠りたくないから、スヌーズをかけよう。
(※"ノット・オーケー"の展開を匂わせています)
公式トレイラー
はい。配信始まって早速観ました"スポンティニアス"。トビー・フーパー監督の"スポンティニアス・コンバッション"って映画がすでにあるもんで、中々検索しづらい観客泣かせのタイトルとなっておりますが、これはオススメ! もちろん不謹慎コメディです。
あらすじ
高校3年生のマーラの周りでは、同級生たちが自ら爆発して死ぬという怪現象が起きていた。そんなある日、マーラは同級生のディランに告白される。自分たちもいつ爆発するかしれない中で、2人は心を通わせていくが……。
キャスト・スタッフ
監督はこれがデビュー作となるブライアン・ダッフィールド。
マーラ役には"ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密"のキャサリン・ラングフォード。ディラン役には"ゲティ家の身代金"のチャーリー・プラマー。他。
クリストファー・プラマーが亡くなっちゃいましたね……RIP。実の孫のチャーリー・プラマーが出演している映画は"ゲティ家の身代金"しか観てないんですが、クリストファー・プラマーと共演して役的にも祖父・孫の関係性でしたね。"スポンティニアス"でのチャーリー・プラマーはとてもキュートだったので、これからの活躍が期待できます。
本作でチャーリー・プラマーは映画オタクのディランを演じています。映画オタクが出てきて若者が死を意識する映画というと、オリヴィア・クックが出てた"ぼくとアールと彼女のさよなら"を思い出します。あっちではオリヴィア・クックの役が白血病になっちゃうんですけど、感動ポルノまがいの難病モノに辟易してる方にこそ観てほしいです。っていうか超絶良い映画なのでぜひ観て! 本作の方では、マーラのクラスメイトたちが次々に爆発……破裂? する形で死んでいきます。コメディなんですけどね(笑)。ディランから「クローネンバーグの映画みたいだな」とメタな発言も飛び出しますが、ボディホラーの感じはなく切り株描写もありません。血液だけが詰まった風船が自発的(=spontaneous)に割れるようにして死にます。キャサリン・ラングフォードがオーストラリア人なだけに、人間を「血液袋」として使用していた"マッドマックス 怒りのデスロード"へのオマージュでしょう……ってそんなわけあるかい。見た目が近いのは、"ザ・ボーイズ"の1話でヒューイの彼女ロビンがAトレインにぶつかって死亡するシーンの描写かな? クローネンバーグうんぬんは"スキャナーズ"への言及かもしれませんね。最近だとソフィア・リリス主演のNetflixドラマ"ノット・オーケー"でも似た描写がありましたけど(何でシーズン2キャンセルなのよ!)。
Netflixドラマの"13の理由"を観てないので、Heiro的には"ナイブズ・アウト"以来のキャサリン・ラングフォードです。ラングフォードって名前カッコ良いよね。キャサリン・ラングフォードは顔が強くて、顔のパーツのバランスが少しでも崩れると魅力が激減する気がします。要するに完成されているということです。個人的にはエル・ファニングにも同じことを思っています。マーラがディランに顔を舐められるシーンがありますが、これは"パーティで女の子に話しかけるには"でエル・ファニングがアレックス・シャープの顔を舐めるのの男女逆転バージョンになっています。たまたまね。
マーラはふてぶてしいキャラでチャーミングなんですが、バッチリパチッとパーフェクトなウィンクかますシーンがあって、それでやられました。Heiroはウィンクできる人はそれだけで好きです。ウィンクの素晴らしさを知らない人は、インドの大女優アイシュワリヤー・ラーイが出てた"Dhoom: 2"の"Crazy Kiya Re"という曲のダンス動画を見ましょう。ラストで天国への門が開かれます。
全編にわたってではなく冒頭だけなんですが、最近だとやはり"デッドプール"で有名な第四の壁破り演出があります。手でカメラのアングルを変えちゃったりもして。第四の壁破りって、青春映画にはよく合いますね。若者の自意識の高さを表現しているというか。脳内で、いもしない誰かを意識して喋ったりしたことってありませんか(Heiroは多々ある)? "エノーラ・ホームズの事件簿"でも用いられていましたが、やはり本作のように現在が舞台の方がしっくりくる気がしますね。
最初は、マーラは自分の周りで同級生が血煙と化していってもそんなに動揺しません。死んだ子たちをジョークにもするほど。この時、他の生徒と違ってマーラは死んだ生徒の血を被ってません。ドラッグをくれるエリザベス・モス似の娘たちの車に乗って、その娘が破裂した時に初めて血を浴びます。"パルプ・フィクション"の、ジョン・トラヴォルタのせいで車中が真っ赤になるシーンの3倍くらいひどい状態になりますが、そこでマーラは取り乱します。この血は「死への意識」を表現してるのでしょうかねえ。ディランや同級生たちと一緒に政府の施設に隔離されると、また安定してくるんですが。キャサリン・ラングフォードがE.T.のマネをしてチャーリー・プラマーが笑いますが、素で笑っちゃってるんじゃないかと思うほどキャサリンが面白いです。
隔離施設に入れられたディランが「たぶんこれが僕らの新しい生活スタイルだ」と言いますが、これコロナ過を予言していたような発言ですね。本作が撮影されたのは数年前なので全くコロナは関係ないんですけどね。後述しますが、本作のテーマはコロナ禍の今の状況にこそフィットする内容になっていると思います。
本作を観る前は、爆死は自殺か大きなやらかしのメタファーだと思ってました。若者が道を踏み外す話だと。隔離施設で年齢確認をされるところで、皆が自分は17歳だと答えます。最近"The Edge of Seventeen(スウィート17モンスター)"という映画がありましたね。原題は「17歳の淵」と訳せるでしょうか。子どもと大人の境目ですね。多感で不安定な時期を真っ当に過ごし人生を棒に振らずに無事大人になれるか、みたいな話だと。
でも実際観てみると、爆死は不慮の死全般を指しているように感じられます。フロリダのシンクホールの話もありましたし。マーラが、同級生の死の原因は自分だとスピーチしますが、別に劇中で言及される"キャリー"的な超能力で爆死させているわけではありません。オルガ・キュリレンコ主演のホラーで"MARA/マーラ"ってのもありましたけどね(笑)。でも、本作ではプロムのシーンではないですが、"キャリー"以上に、というかヘタなホラーより血ドバな描写があります! そして、その流れで「弁護士に聞け」ギャグで笑わせてくれたコールくんや、ディランまで……。
理不尽にディランを奪われたマーラは、アルコールに溺れ、感情を爆発させるようになります。ここは"この世界の片隅に"後半のすずさんの激昂するシーンを思い出しましたね。爆死事件が起き始めた際のマーラも実は内心穏やかでなかったけど、持ち前のユーモアで対処していたのかもしれません。ディランの死後も酒を万引きするところなどで笑わせてはくれますが。マーラの額にはディランが爆死した時に飛んできた顎の骨による傷が残ります。ディランが存在した証を引き受けて、マーラは世界に中指を立てながらさらにふてぶてしく生きていくことを決意します。
本作のテーマは一言でいうと「カルペ・ディエム(Carpe diem)」です。直訳すれば「その日を摘め」ですが、要するに「今を生きろ」ということです。"いまを生きる"って映画もありましたね。普遍的なテーマではありますが、最近もけっこうそういう映画があります。"イット・フォローズ"もそうだし、2/19から公開される"ベイビーティース"も多分そうなんじゃないかなぁ。コロナがこれまでの「当たり前」を「当たり前」じゃなくした、なんてよく聞きますが、偶然ですがこのご時世に特に響くテーマになってますね。爆死した子がシャッターを切られた後に消える描写がありますが、いつまでもあると思っていたものはふと気づくとなくなってしまっていたりしますよね……。劇中であったように、我々は死にスヌーズをかけ、死神を騙しながら今を生きるしかない。「昔は大変だった」と話す大人はたくさんいますが、「いや今の方が大変だから」と中指立ててる作品です。「今を生きる」というより「この時代を生きる」というテーマかも? 若者にこそ観てほしいですが、そうなるとグロ描写がネックですね(笑)。
観る前からテーマは何となく分かるし、そういう意味ではそんなに捻りのないストーリーかもしれませんが、ギャグは面白いし主演の2人が超キュートですので、ぜひ観てください。アマプラやiTunesで観れますが、なぜかアマプラの方が安いです。
監督のブライアン・ダッフィールドは、去年の時点ですでに大評価されているモンスターだらけのラブストーリー"Love and Monsters"の脚本も書いていたようですので、これからの注目作家になるかも。
★★★★★★★☆ 7.5/10点
Rotten Tomatoes 98%,69%
IMDb 6.5
配信作とかDVDだって、いつまでも観れる状況にあるとは限らないのよ。あるうちに観よう。