Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"クローブヒッチ・キラー(The Clovehitch Killer)"(2018) Review!

結ぶは難し、解くは易し。

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公式トレイラー


www.youtube.com

 

これまた嫌ーな映画が出てきてしまいました。結構地味なんで、これが公開されたのはちょっと意外でしたが観る価値ありますよ。特にチャーリー・プラマー好きにはね。

 

 

あらすじ

16歳のタイラーは、父親のドンが団長を務めるボーイスカウトに所属している。この町には10年前まで起こっていた「クローブヒッチ(巻き結び)・キラー」による連続殺人事件の傷痕が未だ残っており、ある日タイラーは常に施錠されているドンの小屋に忍び込み、猟奇的なポルノ雑誌や縛られた女性の不気味な写真を見つけてしまう。タイラーは独力でキラーを追い続けている一匹狼のキャシーと協力し、ドンの調査を進めていくが……。

 

スタッフ・キャスト

監督はこれがデビュー作となるダンカン・スカイルズ。

タイラー役は"スポンティニアス"のチャーリー・プラマー、ドン役は"エンド・オブ・ホワイトハウス"ディラン・マクダーモット、キャシー役は"ベンジャミン・バトン 数奇な人生"のマディセン・ベイティが務めた。他。

 

 

公式含め、色んな所で監督名が「ダンカン・スキルズ」と表記されてますが、原語での発音は「ダンカン・スカイルズ」のようですよ。後、マディセン・ベイティが演じたキャシーはKassiという綴りですが、「カッシ」と表記されていたり。劇中の字幕ではキャシーになってたと思いますけどね。ムムム。まあ良いや。

 

父親が連続殺人鬼だった!」という話はやろうと思えばどこまでも下世話に描けますが、これが何とも繊細な作品になっていて非常に好感を持ちました。この繊細さを保つために大きく貢献しているのがやはりチャーリー・プラマー。佇まいがまず繊細なのに、演技がこれまた繊細。良い役者ですね! 多分最初に彼を見たのはクリストファー・プラマー"ゲティ家の身代金"でしたが、その時の印象は特になく。元々ジャン・ポール・ゲティ役はケヴィン・スペイシーが務めるはずだったのが、過去にセクハラやらかしてたことが判明したために降板となり、急遽代役に立てられたのがクリストファーだったので、偶然クリストファーとチャーリーは役柄同様、祖父と孫という関係で共演することになったんだなー……と当時は思いましたが、この2人ってたまたま苗字が一緒(両方Plummerで綴りも一緒)なだけだったんですね。クリストファーはカナダ人で、チャーリーはアメリカ人だし。Heiroは一時期、ジェニファー・コネリーショーン・コネリーの娘か何かだと思ってました。実際はConnellyとConneryでスペルが違うし、ジェニファーはアメリカ人でショーンはイギリス人ですけど。アダム・ドライヴァーもミニー・ドライヴァーの弟か何かだと思ってました。そういうことあるよね! 個人的にはチャーリー・プラマーはやっぱり"スポンティニアス"の印象が強いですね。キャサリン・ラングフォードとカップル演じてましたが、めちゃくちゃキュートでした。本作とは正反対にアッパーな作品ですが、良ければチェキ。面白いよ。

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本作は表面的には暗黒青春スリラーですね。 同じジャンルでは、最近だと"サマー・オブ・84"とか"ぼくらと、ぼくらの闇"なんて映画もありました。"サマー・オブ・84"は、チャリ版"マッドマックス"として知られる傑作"ターボキッド"の監督たちが手掛けたとは到底思えない鬱映画でありました。関係ないけど、8月から公開のフランソワ・オゾンの新作"Summer of 85""サマー・オブ・84"の続編ではありません。どう考えても次の年の話だけど。"ぼくらと、ぼくらの闇"の方も"Super Dark Times"という原題に恥じない鬱映画でございました。ただ飛行機の中で観たんで、集中できずあんまり記憶に残ってません。やっぱり映画は飛行機とかバスの中で観るもんじゃないですねぇ。関係ないね。

 

ただ本作は、そんなショッキングなだけの映画じゃないんですよ。チャーリー・プラマーの線が細いので、彼の演じるタイラーもそういうキャラクターなんですね。勝手に借りたドンの車に落ちていたSMポルノのような写真をデート相手に見られたことから、変態扱いされ友だちから軽蔑されるようになるタイラーと、「異教徒」とか言われて町の皆から遠ざけられているキャシー。根も葉もない噂によって仲間外れにされた2人の淡い交流が実に味わい深くて良いんですよね。そんな中、時々出てくる猟奇ポルノが非常に異物感を放ってて気味悪いんだよなー。ドンが再度の犯行に及ぶ前に、自分で被害者役をやって予行演習をするんですが、そのブラックなギャグなのか何なのか分からないシーンもキモかったですね(誉)。フリだけですが、タイラーに向かってハンマーで殴るマネをする所も、不快な暴力性をまとっててホント嫌(褒)。

 

ストーリーとしてはあまり捻りはなく、「父さんが連続殺人鬼!?」「よく分かったな小僧」という流れそのままなんですが、再度犯行をやらかすドンの後ろから研修に行ったはずのタイラーが銃を構えて出てくるシーンはアツかったですね! やはりと言うか何と言うか、ドンにそれを奪われ引き金を引かれますが弾は入ってなかった、という展開もアツいと同時にゾッとしたりして。

 

ふん縛ったドンをタイラーがひっそり殺し、ドンがクローブヒッチ・キラーだったという真実は隠して家族を守ろうと決意して映画は終わります。そもそも、ドンがまた凶行に走ったのは、ドンが持っていた写真など全てをタイラーが燃やさせたことに一端があるだろうし(それでどうにか欲求を満たしていた?)、町の皆の前でタイラーが死んだドンに向けてスピーチする所は完全に目が泳いでるし、ドンの死を確認した母シンディが「問題を抱えた人だった」と泣くのが意味深で不穏すぎたりと、全く今後に明るい展望がないです。映画の展開的には強大な父親を倒し大人になった(いわゆる親殺し)ということですが、繊細なタイラーがこのまま同じように生きていくのはどうも難しいような気がします。デヴィッド・フィンチャー"ゾディアック"では、他人のくせに連続殺人鬼に関わって人生が壊れていく人たちが描かれてましたが、本作のタイラーには選択肢もなかったし。ま、親は選べませんからねぇ……。もし本作が"ヘレディタリー/継承"に影響を受けてれば、タイラーは自らに流れる殺人鬼の血に苦悩したでしょうが、それよりは普通に16歳の少年には重すぎる十字架を背負ったというエンディングだと思います。家族地獄映画としては共通してますけどね。家族でもロープでも、結びつけるより解く方が簡単ですよね。作るより壊す方が簡単。何でも。

 

 

★★★★★★★☆  7.5/10点

Rotten Tomatos  79%,68%

IMDb  6.6

秘密は相手の心の中に。一度暴いてしまったなら、 自分の墓の中に……。