Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"ワイルド・ローズ(Wild Rose)"(2018) Review!

やっぱりカンザ……グラスゴーのお家が一番ね!

(※"ラ・ラ・ランド"のオチに触れています)

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公式トレイラー


映画『ワイルド・ローズ』6月26日(金)公開/本予告

 

スコットランドグラスゴー版"スタア誕生"といった感じの本作。新たなスタア、ジェシー・バックリーをとくとご覧あれ!

 

あらすじ

シングルマザーのローズ=リンは1年間の刑務所生活から帰って来た。持ち前の歌声を活かし、大好きなカントリーミュージックの歌手としてカントリーの聖地ナッシュヴィルで成功することを夢見ているが、前科者というレッテルと2人の幼い娘らの子育てがそれを容易にさせてくれない。ローズ=リンは仕方なく家政婦の仕事を始めるが、雇い主のスザンナが彼女の才能を見込み、その夢を後押ししようとする。

 

キャスト・スタッフ

監督は"イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり"のトム・ハーパー。

ローズ=リン役には"ジュディ 虹の彼方に"のジェシー・バックリー。ローズ=リンの母親役に"ハリー・ポッター"シリーズでお馴染みのジュリー・ウォルターズ。他。

 

 

名前が似てる監督が多いですね。トビー・フーパー("悪魔のいけにえ")とかトム・フーパー("キャッツ"……あ、Heiroは嫌いじゃないよ)とか。Heiroは未公開映画の情報を漁るのが好きなんで公開が決定する前から"Wild Rose"というタイトルを知っていましたが、すでにかなり評判が良かったんですよ。いざ観てみると、死ぬほど好きというわけではないけど、普通に良い作品だと思いました。おそらく大半の人は気に入るでしょう。日本では次作の"イントゥ・ザ・スカイ"の方が先に公開されましたが、大空スペクタクル映画になっており、そっちも評判に違わず面白かったです。"ワイルド・ローズ"の前作はダニエル・ラドクリフ主演のホラーとして話題になった"ウーマン・イン・ブラック"の続編だそうですが、そっちは評判良くなさそう。作品ごとのカラーが違いすぎて、まだ監督の持ち味が分かりませんが、これから注目監督の一人になるのでは。

 

今作はジェシー・バックリーなしには成り立たなかったでしょう! それだけカリスマ的な存在感です。日本ではこれまでほとんど知られてなかったでしょうし、そもそも映画への出演もほとんどなかったようです。Heiroも存在を知りませんでした。しかし日本では今年は完全にジェシー・バックリーイヤーになっております。3月に"ジュディ 虹の彼方に"が公開、そして6月には"ドクター・ドリトル"と今作が公開と、立て続けに出演作が上陸しています。まだ"ジュディ"は観れてないので、早く観たい! "ドリトル"は……いいや(笑)。

さらに面白い偶然が。"ジュディ"でのジェシーの役名は「ロザリン・ワイルダー(Rosalyn Wilder)」。ひっくり返すと「ワイルド・ローズ」やん!!! 「ローズ=リン(Rose-Lynn)」と「ロザリン」もともに薔薇の「ローズ(Rose)」の変形だろうし。ジェシー赤毛だしね。しかも、"ジュディ"ではもちろんレネー・ゼルウィガー演じるジュディ・ガーランドが主人公だけど、そっちでも子育てと歌手活動の両立が描かれてるそうですよ。しかもしかも、"ジュディ"のタイトルにある「虹の彼方に」とはもちろん"オズの魔法使"の主題歌"Over the Rainbow"のことですが、今回の"ワイルド・ローズ"にもこの"オズの魔法使"が関係しているのですね! 何だろうかこの神の悪戯は。(ちなみに"オズの魔法使い"ではありません。少なくとも映画版はね) ジェシーの流れ来てるぞ! ついこないだNETFLIXに、チャーリー・カウフマンの新作でジェシーの主演作"もう終わりにしよう。"が配信されたばっかりだし。カウフマン作品らしく難解なようですが評判も良いですね。そのまま突っ走れ!

ジェシーは小動物系というか、齧歯類系の顔立ちで非常にキュートなんですが、劇中では口の端を歪ませてニヤッと笑うのがたまらない。こないだ"ザ・ハント"を観て秒速でベティ・ギルピン様の魅力にやられましたが、ジェシーにもノックアウトされました。もちろん見た目だけにやられたわけじゃないよ。

今作は音楽映画なので、当然歌声が主役。しかもカントリーとなれば、テイラー・スウィフトみたいな例はあるけど、個人的には若い女性が歌うのはあまり想像できませんでした。カントリーそもそも聴かないしね。しかしその先入観を粉々に叩き潰してくれたのは、ジェシーのあまりにもソウルフルでワイルドな歌唱! この映画をそんなに気に入らなかった人もこの声には唸ったでしょうよ。シャウト気味にガナるとことか最高ね。曲関係でも面白い情報があって、主題歌の"Glasgow (No Place Like Home)"はあの大女優のメアリー・スティーンバージェンが作ったようですよ。「は?」ってなりますよね。「誰?」ってなった人のために一応言っとくと、"バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3"でドクの奥さんになる人ですよ。どうやらソングライターとしても活動してるようで。才人ですね。って言うか、"ワイルド・ローズ"面白い周辺情報多すぎて話が終わらないよ。

 

ジェシーのインタビュー動画見てると、「ローズ=リンは私と同じで完璧な人間じゃないからうまく演じられると思った」と言って大笑いした後、「……うまく演じられてると良いけど」と自信なさげに微笑むのが超かわいいんですが、ローズ=リンはお世辞にも良い人間とは言えません。子どもをほっぽらかして遊び歩いてるし、雇われたばっかりなのにいきなり雇い主のスザンナに「ナッシュヴィルに行きたいからお金くれない?」とか言うし、基本的にかなり失礼なヤツです。刑務所にいた間の子どもの面倒はローズ=リンの母親のマリオンが見ていたし、刑務所を出た後の子どもの面倒も大体マリオンが見てます(笑)。親の自覚があまりない感じ。でもどこかチャーミング。スザンナ宅で留守番しながら掃除する際、ヘッドホンでガンガンカントリー流して踊り狂いながら熱唱するところは素晴らしいです。"バードマン"みたいな演出で、何故かスザンナ宅の至るところに妄想バンドメンバーがいて演奏してます。特に「あんたは高く飛びすぎた」って歌詞のところで"サタデー・ナイト・フィーバー"みたいなポーズとるとこ最高ですね(笑)。

刑務所行きになったのは、泥酔状態で囚人にドラッグを渡そうとしちゃったからなんですが、歌手活動のためGPSタグ外しを検討してくれる弁護士と話しても、「前の弁護士は『君は悪くない』って言った」と抜かし反省の色なし。そりゃそう言うだろ(笑)。弁護士も辟易しますが、そこはプロ。依頼人のために法廷で「彼女も非常に反省しており云々」などと述べ、見事タグ外しに成功するというギャグが笑えます。その後ローズ=リンに連れて行かれたクラブで彼女の歌声を聴くと、弁護士もつい頬が緩みます。このシーンに説得力があるのはさすがですな。

スザンナの計らいでBBCラジオの大御所パーソナリティのボブ・ハリスさん(本人が演じている)に会えることになったローズ=リンだが、「自分だけのメッセージが込められた曲を作らなければ」と言われ戸惑ってしまいます。その後も、せっかくスザンナが企画してくれたクラウドファンディングパーティと子どもの怪我が重なったり、絶妙に夢か家庭かの二者択一を迫られていくローズ=リン。パーティを台無しにしてしまったローズ=リンは家庭一筋になろうとします。

ある日。ローズ=リンのバースデーパーティを慎ましく行っていると、ロウソクの火を吹き消す時の願いごとを息子にさせようとして、マリオンは何か思うところがありそう。実は、マリオンは若い頃薬剤師になる夢があったのに、ローズ=リンを産んだために諦めたんですね。「子どもに夢を託す方が楽だった」と話します。ここら辺、世のお母さん方が号泣しそうなシーンですね。象徴的なケーキのロウソクからこのシーンへの流れが上手いですね。マリオンがコツコツ貯めたお金でナッシュヴィルに行ってきなさいと背中を押されます。(今さらかもですが、吹き消しの際の願いごとは日本以外では当たり前のことのようです。逆に何で日本はロウソクだけはやってるんだ)

さて、ナッシュヴィルに着いたローズ=リン。タクシーに乗ると、そのドライバーも歌手の夢を持っているらしいけど、でも現にタクシーを走らせているわけで。ここら辺"ラ・ラ・ランド"で女優志望のエマ・ストーンがウェイトレスやってたシーンを思い出しました。こういうことはいくらでもあるんでしょうね……。ナッシュヴィルのクラブで飛び入りで歌えないが打診するローズ=リンですが、そこはやはり本場なだけあって世界中から同じ目的の人々が集まるわけで。断られたローズ=リンは翌日、カントリー界で最も有名なライブ会場であるライマン公会堂の見学ツアーに参加します。ここで勝手にガイドから離れてステージに上り、もちろん観客もいない中歌い出します。ライブの準備をしていたヴァイオリニストだけが伴奏してくれて。その後、歌を聴いていた警備員が、レーベル関係者に紹介できると言ってくれるのですが、ローズ=リンはそれを断ります。なぜ断ったのかの理由は明らかにされませんが、Heiroは"ラ・ラ・ランド"的な理由と解釈しました。あの映画のラストでライアン・ゴズリングエマ・ストーンが上手くいってたかもしれない未来を思い描きますよね。"ワイルド・ローズ"にはそんな空想シーンはありませんが、これまでは不可能だと思えた憧れの地で歌うことができて、ローズ=リンには喝采を浴びる自分の姿が見えたのではないでしょうか。後悔などなさそうにグラスゴーに戻ったローズ=リンは1年後、地元のクラブで大勢の客の前で歌えており、その中には家族やスザンナ、大勢の女性客がいます。最初に思い描いていたよりは大きなスケールではないけれど、夢と家庭を両立できたわけです。非常に現実的で、地に足がついた着地です(2回同じことを言ってるような妙な言い回し)。なんか仕事で成功して娘との関係修復できるってこのラスト、"バードマン"っぽくもあるな。最後のライブではローズ=リンは羽ばたいてるわけですし。

 

ラストに熱唱しているのが主題歌の"Glasgow (No Place Like Home)"。オズの魔法使イズムの曲で、故郷が一番であることを歌っています。生まれる時代……じゃなく生まれる場所を間違えたと言っていたローズ=リンが、初めて自分の言葉で歌う曲。グラスゴーに生まれたのは間違いじゃない。子どもをもうけたのは間違いじゃない。自分の過去を受け入れられたし、自分の国(カントリー)を誇りに思えるようになった。元犯罪者のレッテルから解放され、自分を縛るだけの「家庭」からも解放されたと。マリオンとの確執も解消されて、女性同士がいがみ合ったまま終わらず、連帯することでハッピーエンドに向かうのが良いですね。ローズ=リンはシングルマザーで、父親の存在は全く話題にされませんが、男である父親は家庭を持とうとせず自分の夢だけを追いかけていったのかもしれませんね。女性が同じことをしようとするとローズ=リンみたいな状況になるのが今の社会なので、この映画は将来古臭い作品だと言われなければならないでしょう。それでもジェシー・バックリーの歌声はなおも光り輝いているでしょうけど。

 

正直子どもとの関係が修復される描写などはもっと多い方が良いんじゃないかなとも思いましたが、万人に、その中でもやはり特に母親の立場にいる方に観てほしいですね。そしてまだまだ行け行けGOGOジェシー!!!

 

 

★★★★★★★ 7/10点

 

Rotten Tomatoes  92%,87%

IMDb  7.2

無事に傑作認定されております。