Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"ホワイト・ボイス(Sorry to Bother You)"(2018)

馬のように働かせられるのはごめんだ! 他人に手綱を握られるのもだ!

(※"カレ・ブラン""スノーピアサー"の展開に触れています)

 

公式トレイラー


SORRY TO BOTHER YOU | Official Trailer

 

公式レッドバンド・トレイラー


SORRY TO BOTHER YOU | Red Band Trailer

 

これまた頭のおかしな映画が出てきてしまいました。元々ひっそりとAmazonプライム・ビデオで配信された作品で、今では多分スターチャンネルでのみ観られます。と言っても今月末までなんで、ここで紹介しても残念ながら多くの人は観られないでしょうけど……。それでもやる!

監督のデビュー作にして堂々たる一本。いつも言ってるように、コリー・フィンリーの"サラブレッド"、カルロス・ロペス・エストラーダ"ブラインドスポッティング"、カーロ・ミラベラ=デイヴィスの"Swallow/スワロウ"などの傑作たちと並べても良いレベルの作品になってると思います。"ブラインドスポッティング"とは舞台がオークランドであることも共通してますね。

 

 

あらすじ

カリフォルニア州オークランド。無職のカシアスは経歴詐称してまで職を探しに探した末、誰でも採用するテレマーケティング会社に雇われた。普段同様に黒人英語を使うと客に相手にされないが、同僚の黒人から「白人声(ホワイト・ボイス)を使うと良い」とアドバイスを受け実践してみると、見る見るうちに業績が伸びていく。カシアスは社内でトップテレマーケターを意味するパワーコーラーになることを期待されるが、低賃金で働かせられている同僚たちは労働環境改善のためのデモを画策しており……。

 

キャスト・スタッフ

監督はこれがデビュー作となるブーツ・ライリー。

主演は"ゲット・アウト"のラキース・スタンフィールド。"マイティ・ソー バトルロイヤル"テッサ・トンプソンや、"Z Inc. ゼット・インク"のスティーヴン・ユァン、"君の名前で僕を呼んで"アーミー・ハマーなどが脇を固める。

 

 

 先日紹介した"恐怖のセンセイ"の監督は「ライリー」・スターンズでしたが、本作の監督はブーツ・「ライリー」という面白い偶然が。ブーツ・ライリーはThe Coupというオークランドのヒップホップグループのヴォーカルらしいです。ちなみに、The Coupの6枚目のアルバムも"Sorry to Bother You"というタイトルのようです。「お忙しいところすみません」の意味ですね。

ラキース・スタンフィールドは最近の黒人スターの中で一番ハンサムだと思いますねぇ。リーアム・ニーソンみたいな困り眉でキュート。Heiroと同学年と知って驚き。遅ればせながら他の方の感想見て、カシアスが劇中、現金(キャッシュ)と同じ音で呼ばれていることに気づきました。

テッサ・トンプソンはまず名前が好き。テッサって響きがかわいいよね。彼女の場合はテッサが本名のようですが、普通はテレサの愛称ですよね。テレサも良い名前です。37歳らしいですが全然見えない。名前だけでなく役のキャラクターもチャーミングで、看板持ちの仕事をしているシーンが印象的です。最近だと"ジョーカー"の冒頭でホアキン・フェニックスが看板持ちやってましたね。

デモの先導者なのにスクイーズ(=搾取する)という名前の謎のアジア系を演じるのがスティーヴン・ユァン。イ・チャンドン"バーニング"では謎の大金持ちやってましたから、このキャスティングは面白いですね。まあ、本作は謎のウイルスがない"Z Inc."みたいなもんですけど。話逸れますが、"Z Inc."と同時期に似たような映画が他にもありましたよね。"Z Bull ゼット・ブル""サラリーマン・バトル・ロワイアル"か。"Z Bull"は観てますけど、事の発端がウイルスかエナジードリンクか、ヒロインがサマラ・ウィーヴィングジェーン・レヴィかの違いしかなかった気がします(笑)。どっちも鬱憤を溜め込んだ平社員の下剋上の話です。"サラリーマン・バトル・ロワイアル"は観てないので分かりませんが、サラリーマンたちが謎の命令で殺し合いをさせられるという内容らしい(そのまま)……って全部同じじゃん!! どれかがどれかのリメイクだったりするのかな……。それにしても全部邦題ヒドいな(笑)。劇中スクイーズが披露する華麗な看板回しですが、検索するとカッコ良い動画がいくつか出てきます。本作ではさすがに、スティーヴン・ユァンの動きは他の人がやってるんでしょうね……? ちなみに、近いうちサマラ・ウィーヴィング主演の作品を観るつもりでいますので、面白かったらレビューします。

そしてやっぱり嫌な感じの役だったアーミー・ハマー。と言っても嫌な金持ちの役って"ソーシャル・ネットワーク"の時だけ? 本人自身も金持ちの家に生まれながら、高校を中退し俳優を目指したというエピソードのある彼。現在は泥沼の離婚劇の最中らしく大変そうですが、どうにか頑張ってほしいところ。しかしカンペキな顔だ……。

 

まず観ていて感じるのは、演出がミシェル・ゴンドリー風であること。劇中でもミシェル・ゴンドリー(Michel Gondry)をもじったミシェル・ドングリ―(Michel Dongry、gとdが逆)という名前が出てくることからも明らかです。Heiroが観たミシェル・ゴンドリー作品は"エターナル・サンシャイン""ムード・インディゴ ~うたかたの日々~"だけなので、的を射ているか分かりませんが、ファンタジックであると同時に目の前で舞台転換が行われているような演出が非常に魅力的だと感じた覚えがあります。本作でもそういう演出が多くされていて、例えばカシアスがセールスの電話をかけると、電話先のお宅にデスクごと移動し対面で話しているような映像になります。これが楽しい! マンガみたいな表現ばかりでかわいいんですよね。ただ、レッドバンド・トレイラーがあるように、内容は大人向け(特にエロス)になってます。もちろんテーマ性もそうですが。

 

映画好きな方はホワイト・ボイスについて最近聞いた覚えがあるのではないでしょうか。"ブラック・クランズマン"の中で、ジョン・デヴィッド・ワシントン演じるロンが「話し方で黒人かどうか分かる」と豪語する当時のKKKリーダー、デヴィッド・デュークに電話するシーンがありますが、デュークは見事に騙されます。確かあの映画ではロンは普段からホワイト・ボイスで話しているんですよね。デュークにざまあみろ電話する時だけ意識的にブラック・ボイスにしてた気がします。正確には声というよりアクセントかな? 差別されてきたロンはどちらも使いこなせるようになっているんですね。黒人英語を話しているだけで嘲笑の対象になるんでしょうね。日本人には分かりにくい部分ですが、同等には考えられないことを百も承知であえて例を挙げるなら共通語と方言みたいなものでしょうか。それか、イギリス英語のコックニー訛り。"マイ・フェア・レディ"の中でオードリー・ヘップバーン演じるイライザは自身のコックニー訛りをバカにされ矯正されます。"マイ・フェア・レディ"に言及していた"キングスマン"でも重要なシーンでコックニー訛りが出てきましたね。おそらく聞く人が聞けば「お里が知れる」と思うものなんでしょう。

ホワイト・ボイスについては、本作の中ではさらに進んで、アクセントというより(それもあるでしょうが)裕福そうで自信に満ちた声と説明されます。白人たちのありのままの声ではなく、白人たちが理想だと思う声。そういう意味では、もしかしたら実際に白人すら持っていない声なのかもしれません。その論理ならカシアスのように黒人でなくともホワイト・ボイスは出せそうですが、黒人なら白人喋りもできるという部分とのダブルミーニングのジョークなんでしょう。劇中だと、ホワイト・ボイスは別の俳優による吹き替えになってて安っぽくも面白くなってますけど。ちなみに、テッサ・トンプソン演じるデトロイトにもホワイト・ボイスの俳優がいるんですが、これが何とリリー・ジェームズ! ただ鈍感なHeiroはどこで吹き替えられてるのか気づきませんでした(笑。実際はデトロイトのアートショーのとこらしい)。現代の労働者のレジスタンスみたいな活動をしている、自由の象徴のようなデトロイトですが、彼女自身もホワイト・ボイスを使っているところが切ない。

ホワイト・ボイスを駆使しパワーコーラーとなったカシアスは、アーミー・ハマー演じる億万長者スティーヴ・リフトのパーティに呼ばれますが、求められるのはラップ。実力があっても白人たちにとっては「下層の」黒人でしかなく、黒人ならラップくらいできるだろとザ・ステレオタイプな物言い。カシアスはラップができない黒人だったので冷や汗をかきます(ラキース・スタンフィールド自身はラッパーなので、ひとつのジョークになってる)。どうにかひねり出した言葉は、黒人への蔑称であるNワード。それも普段話しているブラック・ボイスで。それまで白けていた観客は皆一斉にレスポンスし始めますが、言葉の意味だけで考えれば白人が大勢で寄ってたかって黒人1人を侮蔑している図になります。カシアス自身も自分を否定していることに。実に気まずいシーンです。

 

社畜という名の現代の奴隷の反乱を描いた本作。誰も観てないと思いますが、前に似たような内容の"カレ・ブラン"というフランス映画がありました。ディストピアSFなんですけどね。嫌な話でしたが、印象深い作品でした。"スノーピアサー"もそうですね。主人公が一度は権力側に取り込まれるも、正義に目覚めて反旗を翻すのも同じ。オークランド繋がりで言えば"ブラックパンサー"もそうでしたね。治安の悪さで有名なオークランドですから、貧困の問題を描く舞台としてもピッタリということかな。

 

終盤、デモ参加者が警察隊の車に轢かれたと見せかけてウマサピエンスたちが助けに来るところはアツかったですね! 見せ方が上手い。一時はデトロイトと良い仲になっていたスクイーズが黙って身を引くのもカッコ良いですねぇ。スティーヴ・リフトにコカインと騙されてウマサピエンス薬を吸わされ、変身したところでバッドエンド。……と思わせて、ウマサピエンスの仲間とリフト邸に殴り込むラストは、一般的なハッピーエンドとは違いますがアガります。

 

見た目こそ珍妙怪奇ですが、中身は大昔からあるような奴隷商人と奴隷解放者の物語。これはきっとあなたの年間ベストに入る傑作だと思いますよ。ブーツ・ライリーにはぜひまた映画撮ってほしい!

 

 

★★★★★★★★  8/10点

Rotten Tomatoes  93%,70%

IMDb  6.9

それではお忙しいところ長々と失礼しました。