Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"RUN/ラン(Run)"(2020) Review!

紛れもなく母の「アイ」についての物語。

(※"ガール・オン・ザ・トレイン""透明人間"のオチに何となく触れています)

 

公式トレイラー


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今年公開作でトップクラスに期待していた一作でしたが、その期待に見事に応えてくれました。不満がないわけじゃないですが、フレッシュなシーンも色々ありましたしね。一本満足

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あらすじ

生まれつきの両下肢の麻痺によって車椅子生活を余儀なくされているクロエ。シングルマザーの母親ダイアンはそんな娘に過保護に接し、学校には行かせずホームスクーリングで対応していた。クロエは、自分を外界から遮断するようなダイアンのあまりの過保護ぶりに疑いを抱くようになり、やがて恐ろしい真実に迫っていく。

 

スタッフ・キャスト

監督は"search/サーチ"アニーシュ・チャガンティ

主演は、実際にクロエのような車椅子ユーザーのキーラ・アレン。狂気の母親役には"ミスター・ガラス"などのサラ・ポールソン

 

 

クロエ(Chloe)って良い名前ですよねえ。HeiroもTwitterのアカウント名に使ってるんですけどね。響きとスペルが無性に好きです。全く本題と関係ないですね。

 

正直ストーリーは大体事前に予想していた通りでしたが、細かい所で何度か予想を裏切ってくれました。やはりまずはクロエを演じたキーラ・アレンの車椅子ドライビングテク。キュッと素早く360°回ったり、猛烈なスタートダッシュかましたり。キーラ・アレン自体がプライベートで車椅子ユーザーなので、付け焼き刃でないホンモノの技術です。そう、技術。彼女を見て、「歩けないからその代理として『手で走ってる』んだ」なんて思考は全く浮かびませんでした。アスリートを見る感覚に近いというか、人間離れした動きにすら感じました。クロエのキャラクターも良くできてましたね。キーラ・アレンは垂れ目なもんで、どちらかと言えば気弱な性格っぽい見た目です。しかし、クロエは思ったことを割と正直にダイアンに伝えます。このギャップが観客の心を引っ張りますね。もっともらしい理由をつけられ変な薬を飲まされそうになったら、「この薬は何?」って躊躇わず聞いちゃうんですよ。別に黙って飲んだフリして後で吐き出しても良いわけじゃないですか。そういうとこでハラハラさせますが、正直に話しながら一部に嘘を混ぜてダイアンに本心を悟らせないようにします。木を隠すなら森の中、クロエの知性を感じさせます。終盤、クロエが一旦危機を脱した際に取った行動は、文字通り「自殺行為」でした。明らかに有害な液体を一気飲みですからね。しかし、クロエを死なせるわけにはいかないダイアンは、苦肉の策として彼女を家という牢獄から出し病院に連れて行きます。この展開は実に上手かった。キャラクターが観客の予想の上を行く解決策を提示してくれるのはホント最高です。糖尿病なのに隙あらばチョコをくすねようとするのも可愛い。

 

クロエに全てがバレたダイアンは、魔女よろしく得体の知れない黒いドロドロの液体を混ぜ混ぜし始めます。やっぱり"イントゥ・ザ・ウッズ"のステイ・ウィズ・ミー魔女(メリル・ストリープ)じゃねーか! というね。この液体でちょっとドゥニ・ヴィルヌーヴプリズナーズを思い出しました。確か同作のポール・ダノはコーラみたいな薬を飲まされて脳に障害が出てたんじゃなかった? この薬をアルコールに置き換えれば、エミリー・ブラント"ガール・オン・ザ・トレイン"になります。元々あった能力を奪われた人たちの物語ですね。

 

クロエが昇降機から落ちる所はもはやスラップスティックなギャグのようで、痛みに身動きできない中で足の指が微かに動く瞬間は非常に感慨深かったですね。足は全く動かないものだと思ってましたから。こういう、B級スリラーながらも、そこからはみ出す要素がドラマティックで面白い。アニーシュ・チャガンティはやはり中々の大型新人ですね。クロエが何故か水を口に含んで屋根に上がり、ハンダごてでガラスを熱し、その水を吹きかけて温度差で割るシーンとか、「映画でこんなシーン見たことねえ!」とひとりテンション爆上がりしてました。やっぱフレッシュな映像を見せてくれる映画は良いですよ。屋根からずり落ちそうになりながら匍匐前進するシーンも見たことなかったし。

 

ただ終盤の展開にはちょっと言いたいことがあります。まず、病院でダイアンがまたクロエを捕まえて逃げようとしますが、ダイアンに一撃食らわせるのが警官(警備員だっけ?)なんですよね。そこはクロエが車椅子を動かして階段から突き落とすか、足で蹴って突き落とすかして欲しかったですね(笑)。さすがにあんな毒を飲んだ直後だったんでムリかもしれませんが……。あ、でも足で突っ張って車椅子を動かしまいとしてましたよね。自分の力、それも取り戻した力で一矢報いたらアツくない? そこが他人任せだったのがちょっとね。後、7年経って立ち直ったクロエが、自分が盛られていたのと同じ薬を寝たきりのダイアンに飲ませようとする所で終わりますが、クロエは生みの親にも会えたことだし、少し歩けるようになってるし、ダイアンに「You need me.(あなたには私が必要なの)」って言われてたんだから、それへのアンサーとして「I don't need you anymore.(もう必要ないわ)」とか言ってその幸せな姿を見せるだけで十分な復讐になると思うんですよ。せっかくB級スリラーの枠に収まりきらない(収まってること自体は悪いことではないけど)ポテンシャルがあるのに、そこに戻ってきちゃうってのはもったいなくない? これはクロエの立ち位置とも被る話で、結局クロエは歩けるようになってもダイアンとの非建設的な関係から抜け出せませんでした、みたいな終わり方になってるじゃないですか。まー、ダイアンが自分の母でも何でもないサイコだったって判明しても「ママ」って呼んでたからね。そこの悲哀があるのかもしれませんけど。それプラス(これ言っちゃ身も蓋もないけど)、犯罪行為ですからね、それ(笑)。別に障害者よ聖人たれと言ってるわけではなくて、その行為に手を染める必要性はないじゃないですか。クロエは途中からダイアンによってガスライティングのようなことをされますよね。ガスライティングとは、加害者が被害者を騙し、被害者側に責任があると思い込ませる行為です。本作では、クロエが自身の認識を疑うといった方向性にはならないですが、クロエが周りの大人に助けを求めようとする度に、ダイアンが「この子飲んでる薬のせいでヘンなこと言ってるんです」と言って回ります。"ガール・オン・ザ・トレイン"でも用いられたテーマでしたが、そのオチに本作と同じような感想を持ったのは"透明人間"でしたね。あれも完全にガスライティングの話でしたが、最後にエリザベス・モスがDV夫を殺しますよね。お腹に赤ちゃんいる状態でですよ。妊婦も聖人たれと言うわけじゃありませんが、「お前もう人の親やろ!」と言いたくなりましたよ。もちろんスカッとした部分はありますが、「ああ、一線越えちゃったな……」と残念に思ったのも事実。そりゃ、スリラーなんてジャンルで、いやスリラーに限らずとも、主人公が敵を殺して終わるって展開は掃いて捨てるほどありますけどね。何だろう、やっぱり単なるB級スリラーからせっかく一歩踏み出したその足をそのまま引っ込めるようなもったいなさがあるからかな。"Swallow/スワロウ"だって、ヘイリー・ベネットが夫を殺しに戻ったりしたら台無しでしょ。あれこそ、「私の人生にあなたはもう必要ない」ってことだったんですよ。

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サラ・ポールソンも最高でしたね。あの顔の歪ませ方ハンパじゃないよ。娘(本当は違うけど)に毒を盛ってた文字通り毒親でしたけど、世の親御さんも多かれ少なかれ子どもの自立(奇しくも、日本語だとクロエは文字通り「自立」してましたね)は寂しいことなんでしょうね。でも、結局ダイアンの行動はどこまで行っても「愛」ではなく、「I(アイ)」=自分のためでした。愛はYouのために使いたいものです。

アニーシュ・チャガンティ"search/サーチ"で父と娘の関係をポジティブに、本作では逆に、母と娘の関係をネガティブに描きました。次回作のテーマやいかに? そして監督とキャストは変わりましたが、"search/サーチ"の続編"searching 2"がポストプロダクションの段階に入ったようです。その内容やいかに?

 

 

★★★★★★★★  8/10点

Rotten Tometoes  88%,74%

IMDb  6.7

キーラ・アレンはまだ次回作が決まってない様子。誰かオファーしてや!