Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"Censor"(2021)

都合の悪い記録/記憶はカットすれば良い。

f:id:heiro_chloe:20211106022542j:plain

公式トレイラー


www.youtube.com

 

どうやら本当に独創的なホラー映画が誕生してしまいました。タイトルにある「censor(センサー)」とは検閲官のこと。映画の検閲官という珍しいキャラクターを主人公に据え、検閲と過去の忌まわしい記憶を絡めていく話になっているようです。

 

 

あらすじのようなもの

映画検閲官のイーニッドは、ホラー映画の行き過ぎた残酷描写をカットするのが仕事。ある日、VHS相手にいつものように作業をしていると、彼女が幼い頃に失踪した姉のニーナを思わせる女優が出ていることに気づく。謎の残るニーナ失踪事件はイーニッドのトラウマになっているが、このVHSとの邂逅を機に真実を突き止めようと動き出す。そして現実と虚構の境が揺らぎ始める……。

 

スタッフ・キャスト

監督はこれが長編デビュー作となるPrano Bailey-Bond(プラノ・ベイリー=ボンド?)。

主演は"レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星"のニーヴ・アルガー。"キル・リスト"のマイケル・スマイリーなどが出演。他。

 

賛辞

「An impressive, visually-stunning, debut(印象的で、ヴィジュアル的にも素晴らしいデビュー作)」  -THE PLAYLIST

「A mind-bending nightmare(不可思議で刺激的な悪夢)」  -BLOODY DISGUSTING

「An immersive thrill(没入感のあるスリル)」  -INDIEWIRE

「Elegant and disquieting(エレガントでありながら心をかき乱す)」  -THE GUARDIAN

「Deliciously executed(美味に作られている)」  -THE HOLLYWOOD REPORTER

「Insidious(油断ならない)」  -THE GUARDIAN

「Haunting(忘れられない)」  -THE PLAYLIST

「Magnificently over-the-top(見事に常軌を逸している)」  -TIME OUT

 

 

非常に素晴らしいトレイラーです! 才気走った映像が拝めます。ちょっと昔が舞台のようですね。VHSが普通に使われていた頃の。やはりVHS画質でホラー観るのはオツなものなんでしょうね……経験ないけど。

検閲というのは、ホラー好きにとっては天敵。レイティングの問題でしょうがないとは言え、良いシーンでモザイクかかってたりすると興醒めしますよね。"ミッドサマー"も公開当初はR-15でモザイクかかってて、非常に気色悪いシーン(誉め)が台無しでした。ヒットしてくれたおかげで、その後ディレクターズ・カットの無修正R-18版が公開されましたけど。"ガンズ・アキンボ"みたいに偽物のゾウさん(察して)を映すことでモザイクをクリアする場合もありますが(笑)。

heiro-chloe.hatenablog.com

 

巷で暴力的な事件が起こると、暴力を描いた作品(映画、ドラマ、漫画、ゲーム)などが矢面に立たされることがあります。それらが、それらを見た人を暴力的にすると。実際、心理学的には、人は他人の行動を見ただけで自身の行動に影響を受けると言われています。これを「観察学習」と言いますが、それには観察者の人となりや、影響されて行動した後にプラスまたはマイナスの結果のどちらが返ってくるかなども関わってきます。つまり、元々攻撃性の高い人の方が暴力的な作品に影響を受けやすかったり、作品から暴力行動を学んでも叱られることでしなくなったりするわけです。普通に考えても、暴力的な作品に触れたことのある人数と暴力事件を起こした人数には大きな開きがありますし、人間はエンタメのみから何かを学ぶわけではありません。暴力的な作品が諸悪の根源であるかのような主張は、そもそもそういう作品に好感を抱かない人物によるものだし、作品がスケープゴートにされてるだけです(もちろんレイティングシステムそのものを否定してはいません)。イーニッドもそういった、いわゆる「PTA的な」人物に見えますが……果たして? トレイラーの中で、「People think that I create horror. Horror is already out there... in all of us.(人々は私が恐怖を創り出していると考えているが、恐怖はすでにそこに存在しているのだ……我々皆の中に)」というセリフ(映画監督のかな?)が出てきますが、観察学習についてのものかもしれませんね。本作のポスターには旧型のテレビを中心に据えたバージョンのものもあり、クローネンバーグの"ビデオドローム"を思い出しました。あれも放送されたいかがわしい映像が人々を(文字通り)変容させる物語だったような。

 

さらにトレイラーの中で、「The human brain can edit out when it can't handle the truth.(人間の脳は真実に対処できない場合、編集をしてしまう)」と語られています。それをそのまま映像化したのが"サウルの息子"で、アウシュヴィッツで同族殺しを手伝わされているサウルの視界には、周りに転がっているユダヤ人の死体がはっきり映らず、ピンボケしています。真実を直視しないようにしてるんですね。他の映画でもよく、トラウマを負ったキャラが記憶を一部思い出せなかったり、無意識に記憶を改ざんしてたりしますが、それも「編集」ですね。失踪事件に関するイーニッドの記憶も「編集」されているのかもしれません。イーニッドがこんな仕事をしてるのも、それに関係してるのかも。イーニッドにとって都合の悪い記憶だからシャットダウンして、その罪悪感からホラー映画の残酷描写をスケープゴートとしてカットしまくってる……とか? 終盤はサイコスリラーになっていくのかもしれませんね。

 

主演のニーヴ・アルガーはアイルランドの女優ですね。例によって名前が読めません(スペルはNiamh Algar)。前に"シー・フィーバー 深海の怪物"の記事でアイリッシュネームの話を延々としましたが、Niamhはニーアムじゃなくてニーヴと読みます。非常に見た目がイーニッドのキャラとマッチしてて良いと思います。美人だし。

heiro-chloe.hatenablog.com

 

 

観たことないユニークな設定だけに、「未体験ゾーンの映画たち」などで取り上げてもらいたいですが、マイナーすぎて日本上陸はあまり期待できないかなぁ……。

 

 

Rotten Tomatoes  88%,N/A

IMDb  6.6

こういう映画を見つけるセンサー(sensor)はもっと磨いていきたい。