Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"穢れと祈り(Them That Follow)"(2019) Review!

神に祈る(pray)はずが、ヘビの餌食(prey)に

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公式トレイラー


穢れと祈り (字幕版)

 

ネットで検索ヒット数見る限り、この映画観てる人超少ない(笑)。Filmarksでも30人くらいしか観たマークつけてない。でもキャストは中々豪華だし、地味ではありますがまあまあ面白いです。

 

 

あらすじ

舞台はアパラチア山脈にある小さな集落。そこには儀式にガラガラヘビを用いるキリスト教ペンテコステ派信者たちが住んでいた。住人を導く牧師の娘であるマーラは、同じ信者のギャレットから求婚される。しかし、実は信者でない思い人のオーギーの子を身ごもっていた。婚前交渉を認められていない中で、牧師の娘が妊娠していることが知られるとコミュニティの存続にとって致命的なため、マーラはそれを誰にも話せずにいるが……。

 

スタッフ・キャスト

監督はこれが長編デビュー作となるブリット・ポールトン&ダン・マディソン・サヴェージ。

主演は"女王陛下のお気に入り"オリヴィア・コールマン。他には、"ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界"のアリス・イングラート、"ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー"のケイトリン・デヴァー、"ぼくとアールと彼女のさよなら"トーマス・マンなど。

 

 

ストーリー上の主人公はどう考えてもアリス・イングラート演じるマーラなのですが、映画のクレジットでも、色んなサイトでも主演はオリヴィア・コールマンと書いてありますね。謎。

アリス・イングラートは"ジンジャーの朝""新クライモリ デッド・フィーバー"でしか見たことなかったですが、若く美人ながらも何となく暗い雰囲気をまとった、ちょっとユニークな存在感の女優ですね。イングランドみたいな名前ですがオーストラリア出身で、ジェーン・カンピオン監督の娘です。本作では非常に抑制された演技をしており、幸の薄い感じが良いです。トーマス・マン演じるオーギーとマーラは思い合っていますが、オーギーは信者でないので、カルト宗教コミュニティを束ねる牧師の娘であるマーラとは結ばれない運命にあります。代わりに、マーラに気があるギャレット(ルイス・プルマン)に求婚され、選択肢のないマーラは不本意ながらそれを受け入れます。結婚の儀式をした後もマーラはオーギーに会いに行ってしまうんですが、オーギーは結婚を受け入れてしまったマーラのキスを拒絶します。ここのアリス・イングラートの演技がすごく良かったですね。後数センチで唇が触れるとこまでいって拒絶されるんですが、その時の心の揺れを一瞬悲しそうな上目遣いをすることで表現していました。マーラは感情を普段あまり表に出さないし、アリス・イングラート自身の持つイメージも相まって、そのギャップが上目遣いの破壊力を5億倍に高めていましたね。最高やで。トーマス・マン"ぼくとアールと彼女のさよなら"でオリヴィア・クックと共演してましたね。羨ましい。ちなみに、観てませんがアリス・イングラートとトーマス・マンはすでに"ビューティフル・クリーチャーズ -光と闇に選ばれし者-"で共演してたそうです。ヤングアダルト小説の映画化らしいので、アリス・イングラートが主演だったのが個人的には意外です。関係ないけど、"新クライモリ デッド・フィーバー"って邦題ほんとヒドイよ! 実は"クライモリ(Wrong Turn)"シリーズとも関係ないしな!!

しかし、美しいマーラと結婚できたこのギャレット、顔は優しそうなんですが段々と女性差別的なヤツであることが明らかになってきます。「女性ってやつは何かにつけて不機嫌になる」とか言ったりね。演じるルイス・プルマン(ビル・プルマンの息子!)が実に良い顔してますね。不機嫌な時の唇が、"ザ・ボーイズ"のホームランダーを演じたアントニー・スターに似てて、ちょっとサイコみがあります。

 

カルトの牧師を演じたのは"トゥームレイダー ファースト・ミッション"の敵役だったウォルトン・ゴギンズ。言っちゃアレですが、ほんと敵っぽい顔してますよね(笑)。このカルトはガラガラヘビを身体に巻きつけることで人を浄化でき、もし噛まれてもきちんと神に祈れば無事に済むと考えています。そのため、噛まれる事故が起こっても医者は呼ばないし、噛まれた子どもが死んで警察から目を付けられたりしてます。死んでも「祈りが足りなかったから」と言われる超ブラック集落。結局オーギーも噛まれ、その腕を切り落とされて一命を取り留めます。しかも昔、こういうことをしてた牧師が実際にいたそうで。こわー。"アナコンダ"とか以外でヘビによる恐怖演出をしてる映画はそんなに多くないので、フレッシュでした。銃持った犯人より何考えてるか分かんないしね。ガラガラと尻尾を震わせるところは、非常に緊張感溢れるシーンになってました。また、婚前交渉という「罪」を犯したマーラにも牧師はヘビを巻きますが、そこはかとない艶めかしさのある画になってましたね。

 

外界から隔絶されたこのコミュニティにも女性差別があります。「にも」ってのが悲しいところですが。ギャレットとの結婚を受け入れたのは、確かに最終的にはマーラが決めたことですが、そもそも女性は男性に比べ社会的に与えられている選択肢が少ないので、それで「あなたが選択したことです」とか言われてもね。半ば選ばされてるのと一緒ですよね。最終的には、どうにか助かったオーギーとともにマーラがコミュニティから逃げ出すところで終わります。"卒業"みたいなオチですね。そう、やはり男尊女卑というカルトから人間は卒業しないといけないのです。というのが本作のテーマかどうかは分かりませんけど、フェミニズム映画と言えなくもなさそう。そういえば、"恐怖のセンセイ"とかもそんな映画だったような。

 

オリヴィア・コールマン演じるオーギーの母親は敬虔な信者なので、オーギーが死の淵に立たされても祈りで解決しようとしますが、最後の最後にはマーラに病院へ連れていくよう頼みます。信仰に背いた彼女が今後どう生きていくのか分かりませんが、このコミュニティも近いうちに崩壊するでしょうし、新しい人生に踏み出してもらいたいものです。役名もホープ(=希望)ですし。マーラ(Mara)の名前は聖母マリアから来てるんですかねえ。

神を信じるのは別に良いんですが、サタンもヘビに化けてたし、牧師のようにいつの間にか悪魔の所業に手を染めてしまってたなんてこともありがち。気を付けよう!!

 

せっかく日本上陸しても観てもらえない映画はかわいそうなので、観てあげてください。アリス・イングラート可愛いから!!

 

★★★★★★☆  6.5/10点

Rotten Tomatoes  59%,45%

IMDb  5.3

劇中、関白宣言したギャレットはマーラに「俺の足を洗え」と命令するんですが、マーラは確かにここでの生活から足を洗ったようです。お後がよろしいようで。