Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"カムガール(Cam)"(2018)

ネットをする時は、適度な距離を保ってきちんとバズりましょう。
(※ちょっと"バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)"のオチに触れています)
 
公式トレイラー
"Braid"の記事を書いた時、主役がマデリーン・ブルーワーだったので、同じく彼女が主役で2年前に観た本作のことを思い出しました。以前は良くない環境で観てしまったもので、今回はちゃんと自宅で観ました。やはり面白かった!
 
 
あらすじ
アダルトサイトのカムガールとして生計を立てているアリス。性的なポーズや自殺ショーなど過激な配信で人気になり、売り上げナンバー1を目指していたが、ある日何者かにアカウントを乗っ取られてしまう。それはアリスと顔がそっくりの謎の女で、アリスよりも過激な配信でさらに人気になっていく。アリスは女の正体を突き止めようとするが……。
 
スタッフ・キャスト
監督は、これが長編デビューとなるダニエル・ゴールドヘイバー。原作者のイーサ・マッツェイは実際にカムガールをしていた経験があり、本作の脚本も執筆している。
主演は"ハスラーズ"のマデリーン・ブルーワー。"マグノリア"のメローラ・ウォルターズなども出演。
 
 
最近のブラムハウス・プロダクションズはすごいぞ! 大傑作認定されている"ゲット・アウト"や、Heiroの大好きな"アンフレンデッド""ハッピー・デス・デイ"を製作してて! Heiroの2020ベスト11位の"ザ・ハント"、かなりの良作だった"透明人間"も! 4/9に公開予定の"ザ・スイッチ"まで! Heiroの2020ワースト2位の"ブラック・クリスマス"とか、大酷評されてる"ファンタジー・アイランド"すらも……って、それダメじゃね(笑)。いや、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるじゃないけど、面白い作品もそうでない作品もたくさん出してるのは良いことです。弾がなきゃそもそも戦えないわけですし。観なきゃ評価もできないし。

 
ブラムハウスは去年、「Welcome to the Blumhouse」という映画プロジェクトを発表しました。贖罪や破壊的な力としての家族・愛をテーマにした8本の作品を、アマプラで配信するというものです。しかも、これが長編デビューとなる監督も多い! さらに、8本のうち5本は女性監督、後の3本も多人種の男性監督によるもの(たぶんアフリカ系、インド系、ラテン系)と、非常に多様性を意識したものになっています。攻めてるね! 現在、第1弾として"イービルアイ""冷たい嘘""ノクターン""ブラック・ボックス"の4本が配信中です。Heiroはまだ観ていませんが、今後ブログでも取り上げていきたいと思います。後の4本"Bingo""Black as Night""Madres""The Manor"は今年のどこかで配信されるはず。こういう試み面白いですよねえ。これとかMCUとかDCEUみたいに、〇〇と言ったらこの映画群だ、みたいなのがもっとできれば良いのに。
そんなブラムハウスが手掛けた本作も、かなり攻めた題材になってる! 主人公の名前がアリスだし、彼女が使うサブアカウントの名前が「マッドハッター」と「ミスター・ティーポット」なので、大人版"不思議の国のアリス"といった感じです。読んだことないけどね。へへ。さあ、めくるめく大人の世界へ……。
 
マデリーン・ブルーワーが演じるアリスはカムガールです。アダルトサイトのライブチャットレディみたいなもので、「Lola_Lola(通称ローラ)」というアカウントで活動しています。漢字で「眼」と書かれたWebカメラを使って(笑)。よりセクシーな格好や企画をやってほしければ、視聴者はチャットにその旨を書き込みその都度課金しなければなりません。まーすごい商売です。アリスの場合はそれプラス血糊を使った自殺の真似事もやっており、それなりに人気を得ています。語弊はありますが、過激なYouTuberみたいな感じです。実際には、YouTuberより相当前からカムガールは存在したようですけどね。特定の視聴者をサクラにして「ナイフを使え」とか過激なコメントをさせ、挑発に乗るようにして首を切って死んだフリをし、視聴者たちが慌てふためくのを見てドッキリ宣言するという流れです。そしてサクラとして選ばれた人は、よりアリスと近づけた気になってさらに課金するという……何としたたかな! 視聴者数と支払われた金額のどっちが多い順か分かりませんが、リアルタイムでランキングが変動するので、日々オモシロイ企画を立てて実行しないといけません。アリスはちゃんと人気カムガールたちの配信もチェックし、学ぶ姿勢もバッチリ。
高額の課金をすれば1対1で話すこともでき、上客にはちゃんとヌードを見せたり、デートする場合もあるようです。シングルマザーの母親にはさすがにこのことを伝えていませんが、高校生の弟のジョーダンには何故か教えているようで、過激な配信を誉めてくれます。ジョーダンはなかなか良いキャラしてます(笑)。アリスは順位がもっと上がったら母親に話そうとしていますが、この発想自体に、何ギャップと呼ぶべきか分かりませんがある種の違和感を覚えますね。モラルギャップとでも言うべきか。サクラの男はストーカー気質だったようで、アリスの近所に出没するようになります。アリスは、スーパーで低い賃金で働いている知り合いのケイティを見つけ、ジョーダンの誕生日パーティに誘います。
 
 
アリスは努力が実り、50位にランクイン。この時のためにくす玉も用意してたのが笑えます。しかし、上位ランカーのプリンセスXが突然「ローラの順位を10落としたらヌードになる」という企画を始めたことによって、視聴者はそちらに流れていきます。焦りを取り繕うも、去った視聴者は戻りません。こういう、すぐにレスポンスが返ってくることの負の面を見せられ、観客としても気まずくなります。
ちなみに、プリンセスXを演じているサマンサ・ロビンソンは以前"ラブ・ウィッチ"というカルト映画に出ていました。日本じゃほとんど知られていないと思いますが、海外のカルト映画ランキングとか見ると載ってたりします。Heiroは渋谷アップリンクで上映してた時に観に行きましたが、その後はソフトにもなってないようですね。ヘンな映画だったのに、もったいない。一度上陸した映画はソフトという形できっちり残してもらいたいものです。
 
このままだとランキング上位を目指すのは無理だと判断したアリスは、カムガールをやる上で自分に課していた、「公開でのショーはやらない」というルールを破ることにします。所属しているカムガールたちが集まって共同の企画ができるカムガール・クラブハウスでのショーに参加し、念願の50位の壁を突破。……しかし、次の日からサイトにログインできず、代わりにアリスの顔をしてローラのアカウントで活動を始める謎の女(以下「ローラ」)が登場します。
 
サイトのカスタマーサービスも役に立たず。アリスは前にやった何かの企画動画の録画が流れてるのかと思って、過去のカレンダーをめくるも、そうでもない。めくる時アリスは指を舐めますが、これ外国人もやるんですね(笑)。しかも若いのに。サブアカウントでログインし「ローラ」に話しかけようとするも彼女にバンされ、その場で新アカウントを作って2000コイン支払い個人チャットを申し込もうとするも、登録から5日経たないとダメな仕様になっており「ローラ」を止められません。1コインって幾らなんだろうか。本作はこういう視聴者側の目線も入ってくるので、単純にそういうサイトのシステムをよく知れるという面白さもあります。次の日もカスタマーサービスに対応を求めますが、アクセスコードが無効化されており打つ手がなくなります。「運営側が儲けの半分取っていくくせに役立たず」とアリスがキレますが、そういうものなんですね。もちろんサイトによって違うんでしょうけど。それでもアリスは一人暮らししてるし、様々な企画のために部屋も道具も揃っていますから、けっこう儲けてると思われます。ちなみに、ここで店員役をやってる女性は、原作者で脚本書いてるイーサ・マッツェイその人。
 
ある日、サクラの男はアリスの母の美容室を突き止めやって来ます。「昨日「愛してる、付き合いたい」ってメールくれただろ」と。アリスは「視聴者に「愛してる」と言わない」という自分ルールを課しているので、そんなことするわけないのに。「ローラ」の暴走は危険なレベルになっています。
アリスは新たな配信者アカウントを作るべく、免許証と自分を入れた自撮り写真を運営に送りますが、すでに登録済みと弾かれます。この写真を撮る時、アリスは笑顔で映るんですよね(笑)。職業病なんでしょうか? 芸が細かいね。
 
ジョーダンの誕生日。何と集まったジョーダンの友だちは「ローラ」の過激な配信を見ており、皆の前で「お前のねーちゃんポルノスター!!」とやっちゃいます。「お前のかーちゃん、でべそ!!」とは比べ物にならないですからね。最悪ね。ジョーダンは、バラしたヤツと取っ組み合いのケンカに。中々ねーちゃん思いの良い弟ですが、そのシーンの雰囲気は地獄。アリスは集まった皆から軽蔑の眼差しを向けられます。人に教えたくないほど自分の仕事を恥じているケイティにすら嘲笑われる始末。どうでも良いですけど、このあたりのシーンで、「Happy Birthday」を「おたおめ!」と訳した珍字幕が見れます(笑)。新しいね。
また「ローラ」の配信を見ると、呑気にエアロビをしています(笑)。本作はコメディとまで言えませんが、間抜けなシーンはちょこちょこあります。アリスはムカムカしてますから、「ローラ」に自分を叩かせます。ここでアリスがチャットに「FLOGS」と書き込みます。これ、字幕だと「カエル」になってるんですが明らかにミスですね。カエルはFROG。正しくは「ムチ打て」です。実際、そう言われた「ローラ」はムチを取り出して自分を打ち始めます。あぁ一瞬スラングかと思った。「ローラ」は銃を取り出し、コイン10万枚で撃つと提案します。心中穏やかでないアリスを横目に視聴者たちはノリ出し、すぐに10万枚を達成。「ローラ」は銃口を咥え引き金を引き、脳天を撃ち抜きます。「自分」が死ぬのを見たアリスはパニックに陥りますが、「ローラ」は何事もなかったように起き上がり、トップ20位にランクインしたことを喜びます。首切り自殺の真似をして順位が上がったことを喜んだアリスのように。「ローラ」の映像は時たまノイズが入り、不気味さを演出しています。アリスは警察に相談しますが、彼らはネットにも無知だし、やはり軽蔑の眼差しを向けられます。「客と会って行為に及んだりするの?」などの下世話な質問まで。もはやセカンドレイプと変わらないね
 
 
アリスは、ランキングで不動のトップであるベイビーの動画を見ながら、前に「ローラ」が同じことを言ってたと気づきます。ベイビーに関する情報収集のため、いつも高額の課金をしてくれるお得意さんとデートすることにしますが、襲われそうになって逃げます。ベイビーの地元を聞き出せたのでさらに調べると、何とベイビーはすでに死んでいることが判明。じゃあ今ライブ配信を行っている「ベイビー」は何者なのか? 「ベイビー」と「ローラ」はアリスの家で配信しており、ジョーダンの写真を皆に見せたりしています。アリスがいる寝室にも入って行くので身構えましたが、実際に誰かが部屋に入って来ることはありませんでした。やはり「ローラ」たちは実在しないのか。
 
アリスが実家に戻ってみると、「売春婦の家」と落書きされています。母親に会うと、「配信を見た。いつもの地味なアリスとは違って自信に溢れてた」と、理解してくれてるようなことを言われます。逆にジョーダンからは避けられますが、アリスのことで学校でイジメられてるのかもしれませんね。
 
アリスはベイビーについてさらに調べ、サクラの男がアカウント乗っ取りの犯人ではないかと疑います。近くに引っ越してきていたそいつの住所を割り出し、一発スタンガンを食らわせると、犯人はそいつでなく、様々なサイトにいてカムガールをコピーする謎の存在がいると吐きます。アリスはパソコン上で「ローラ」と対峙しますが、同じ顔であることに相手はノーリアクション。
 
アリスは相手の動きを真似するゲームで「ローラ」に決闘を挑みます。視聴者たちにも見えるように鏡台に座らせて、パソコンの画面と合わせ鏡になる形で。"不思議の国のアリス"の続編は"鏡の国のアリス"ですけどもね。わざとテーブルに顔面を打ちつけ、鼻が折れますが、「ローラ」の方は打ちつけてから数秒後にノイズが発生し、出血した顔に変わります。最初は双子かVFXと思った視聴者たちも変に思い始めます。視聴者たちの投票によって勝利したアリスは、その証にアカウントのパスワードを要求します。しぶる「ローラ」を皆の信用を失うぞと脅すとパスワードが送られてきたので、アカウントを取り戻したアリスはそのままそれを削除します。かくして、アカウント乗っ取り事件は終わりを迎えました。
 
 
しばらく経って、ケガは治ったものの鼻が曲がってしまったアリス。母親が鼻を自然に見えるようにメイクしてくれ、手放しで賛成という感じではないですが、母親公認でまたカムガールの仕事を始めることになります。また乗っ取られたらどうするのかと聞かれ、何度でもやり直すと答えるアリス。偽名と偽IDで新アカウントを作り、新たなモデル名で一からのやり直し。顔には不安も滲んでいましたが、期待に輝いてもいました。おしまい。
 
本作は、カムガールという職業を通じてネットの怖さを描く一面があります。犯人が誰かは明かされませんが、アカウントを乗っ取られ、AI(か何か)によって自分が演じられること(ディープフェイク)や、「ローラ」がジョーダンの写真を見せびらかしたような個人情報の流出。住所を知られたことによってサクラの男に付きまとわれたりもしたし、金持ち視聴者からのデートレイプ未遂もあったし。……あったけど、結局アリスはそんなカムガールの世界に戻っていくわけです。こういう職業を悪として扱い、「こんなことしてたので怖い目に遭いました、だからもう辞めます」みたいなよくあるエンディングにはなっていないのが印象的です。やはり、脚本を書いたのが元カムガールのイーサ・マッツェイだからでしょうね。
彼女は、カムガールとして働くことでアリスのように起業家として自信を持てたと語っています。実際に人と接する性行為に何かしらの違和感があったようで、カムガール経験はそれに境界線をもたらしてくれたとも。前者はともかく、後者については意外な気もします。まあコールガールとかよりは基本的には危険性は少ないのかもしれないけど、あれほどアリスの人生を侵食するようなネットの怖さを描いていたのに、「境界線」とな? 彼女は「同意がある限り、他人の好きなことにケチをつけないで」と言っています。ストーカー野郎やデートレイプ野郎はもちろん違いますが、その他の視聴者は基本的に双方の同意の上で楽しんでいただけの健全な客だということです。アリスが警察に相談した時、「客に望まれたことなら何でもするのか?」と聞かれ、「自分でそれをすると言ったら、するわ」と答えます。同意ですね。納得すれば、アリスは客の提案にも乗るのです。確かに、それはアリスの決定権が及ぶ範囲、つまり境界線を引けることを意味しています。
 
物語を表面的に見れば「ローラ」は他人の悪意によって作られた存在ですが、メタ的に考えればアリスの分身です。まあドッペルゲンガーですよね。ある意味理想の自分であり、ダークサイド。このあたりは、ポルノ関係なくどんな人にも通ずる問題ですよね。もしも、よりバズる要素を持った理想の自分が現れたら、現実の自分は居場所を失くすのではないか? いや、ネット抜きで同じ話をしていた"嗤う分身"があるように、本来はネットも関係ありません。場所も時代も問わない問題に、単純に現代的な味付けとしてネットを持ってきてるのが上手いところですね。アリスがカムガールとして働く上で設定した、「公開ショーをしない」という自分ルールを破った次の日に「ローラ」が生まれます。「ローラ」はサクラの男にやったように、視聴者に「愛してる」と言うルール違反も起こすし、画面には映っていませんが「オーガズムに達したフリをしない」というルールも破ってるかもしれません。これらを破った「ローラ」は、アリスが到達できなかった上位ランキングに食い込むけれど、アリスを追い詰めるトラブルも引き起こします。アリスは自己顕示欲に負け、自分で引いた境界線を越えてしまったのです。最終的に、アリスの鼻は曲がったままになりますが、Heiroはここで"バードマン"のラストでマイケル・キートンが自分の鼻を吹っ飛ばすところを思い出しました。"バードマン"での鼻はまさにバードマンの象徴で、過去の名声や肥大化した自己を表していました。日本語で「鼻を折る」と言うと「自信家の慢心をくじくこと」を意味しますが、奇しくも今回のアリスの行動はそれを文字通り行ったものと言えると思います。今後のアリスは自分ルール、境界線を越えずに、同意の上で健全な(自殺ショーとかはするかも(笑))配信を行っていくのでしょう。
母親公認でカムガール再開というのも理想的な展開過ぎとも言えますが、これもイーサ・マッツェイ自身が感じた職業差別への小さな反抗なんでしょうね。実際、多くの人が触れた経験があるであろうポルノ。差別しながらそれを享受するというのは自己矛盾してますよね。本作を見て、アリスの母親のように、手放しではなくとも少し肯定的にアリスを見れるようになった気がします。
"ブラックサイト"では、スナッフ動画を求める視聴者の歪んだ欲望が描かれていました。4/23公開の"スプリー"では、バズるためなら何でもする配信者の歪んだ欲望が描かれているっぽいです。本作は、ある程度の節度を守ってバズる大切さを説いていたのではないでしょうか(笑)。
 
 
★★★★★★★★  8/10点
Rotten Tomatoes  93%,53%
IMDb  5.3
現実は"コングレス未来学会議"みたいなことになってきてる。我々は、本当は一体何に興奮させられているんだろう。ブルブル。