Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"ウィッチ(The VVitch: A New-England Folktale)"(2015)

人を魔女と呼ぶのは、相手が美魔女だった時だけで良いじゃない。

 (※"ヘレディタリー/継承""ジェーン・ドウの解剖"のオチに触れています)

 

公式トレイラー


映画『ウィッチ』 公式予告編

 

約3年ぶりに観直しました。やはり実に嫌で良い映画ですね! A24配給で、今や大スターのアニャ・テイラー=ジョイを見出したロバート・エガース監督作。本作で(地味ながら)鮮烈なデビューを飾ったのは確かだけど、何故わざわざこのタイミングで観直したのか? そりゃあもちろん、今か今かと待ちわびていたロバート・エガースの次作"The Lighthouse"が、邦題を"ライトハウス"として7月公開が決まったからさ!!

 

 

あらすじ

1630年、ニューイングランドイングランドから入植者としてやってきたピューリタンのトマシンら家族は、大黒柱であるウィリアムとコミュニティの宗教観の違いから村を追われ、孤立して暮らさざるを得なくなる。ある日、トマシンが幼い弟のサムをあやしていると、目を離した一瞬の隙にサムは忽然と姿を消してしまう。魔女の仕業かと疑い始めた家族は疑心暗鬼になり、徐々に互いを魔女となじるようになる。事態は魔女狩りの様相を呈し、一家は内側に向かって崩れ出す……。

 

スタッフ・キャスト

監督は先述の通り、ロバート・エガース。

主演は"サラブレッド"のアニャ・テイラー=ジョイ。"ゲーム・オブ・スローンズ"のラルフ・アイネソン、ケイト・ディッキーなども出演。

 

 

良い映画ってのは、まずタイトルから良い。Heiroのオールタイムベスト映画は"クラウド アトラス"なんですが、6つの時代をシャッフルして描くその実験的な内容はもちろんだけど、そもそもタイトルが好きすぎて他の追随を許しません。原作者のデヴィッド・ミッチェルは、日本の作曲家、一柳慧(いちやなぎとし。オノ・ヨーコの元夫)の曲"雲の表情"(英題が"Cloud Atlas")からタイトルを取っています。「atlas」は普通地図を意味しますが、次の瞬間には形が変わっている物の地図というのも面白い発想だし、しかもそれを「表情」と訳すとは。詩的すぎます。美しい。「International Cloud Atlas」という固有名詞も実際にあって、それは様々な雲を分類した資料である「国際雲図帳」を意味します。雲は移り変わる物、地図は変わらない物と考えて映画を観ると、色々と示唆的です。人は選ぶけど、好きな人は相当気に入る作品だと思いますよ。オススメ!

で、本作。魔女を意味する「Witch」のWを、原題では「VVitch」とVを2つ重ねて書いています。これは当時、より一般的に書かれていた形のようです。最初にこのタイトル見た時、そういった事情は知らないのに、違和感とともに古くて不気味な印象を抱き、心から離れなくなりました。ちなみに、Wをダブリューと読むのはダブル・ユー、つまり2つのUがくっついた字だからです。後、大学で昔フランス語を習った時に教わりましたが、フランス語でWはドゥブル・ヴェと読みます。つまりダブル・ヴィー、2つのVです。面白いですね。何故当時のニューイングランドで、WがUでなくVを重ねた形で書かれていたのかは知りません(おい)。"A New-England Folktale"(ニューイングランドの民話)というサブタイトルも良いじゃないですか。不気味で。実際民話などを詳しく調べて作られたのが本作です。

 

どんな宗教上の確執があったのか分かりませんが、入植地のコミュニティに対しウィリアムが絶縁状を叩きつける形で追放となります。「俺が一番イエス様のこと分かってっから! ニワカのお前らと違って真のファンだから!」ってな感じです。家族の意見も聞かず、長女のトマシンらは作物も実らない死の土地への引っ越しに巻き込まれます。……トマシンね。Thomasin。ちゃんと字幕でもトマシンとなってます。グッジョブ。詳しくはこれね。↓

 

健気に両親の手伝いをしていたトマシンですが、あやしていたサムを目の前で魔女に奪われたのを皮切りに、段々と家族から疎まれていきます。目を離したのは、いないいないばあをしていた数秒だけだったんですけどね。その後、サムを誘拐した全裸のばっちゃんが、ゴリゴリドチャドチャと嫌な音を響かせながら何かを作っているキモいシーンになりますが、これは空を飛ぶための軟膏なんだそうです。何を言ってるか分からないでしょうが、魔女の論理ですからね。洗礼前の子どもの脂肪がその材料だそうで。つまりサム……ぎゃああああ!

 

作物も十分に取れないので、ウィリアムとケイレブは仕方なく魔女が棲むと言われる森に狩りに出ます。よっぽど敬虔な信徒なんだろうと思われるウィリアムは、歩きながらケイレブに聖書の内容を憶えているかテストします。人は生まれながらにして罪深い存在うんぬんかんぬんと。そこで、聡いケイレブは、「じゃあサムは地獄に落ちたの?」とウィリアムに尋ね、困らせてしまいます。サムは罪を持って生まれて、洗礼によって許される前に死んだわけですからね。ウィリアムは「天国にいることを祈ろう」と言うのが精一杯ですが、痛いとこ突かれた感じです。ウィリアムは以前、妻のケイトに黙って、彼女の父の形見の銀コップをトラバサミと交換していましたが、それにも何も掛からず。ウサギを見つけるも逃がしてしまいます。この後もウサギが何度か出てきますが、当時は魔女から連想される生き物だったようです。

 

次男・次女のジョナスとマーシーは双子で、いつも黒ヤギのブラック・フィリップと遊んでばかりいます。手伝いばかりのトマシンはそれが面白くないですが、その上双子(特にマーシー)は意地悪でトマシンを魔女扱いします。Mercy(=慈悲)なんて名前のくせに。イライラしたトマシンは、魔女のフリをしてマーシーを脅かしますが、これが後々良くないことになります。食事の際、ケイトから銀コップのありかを尋ねられたトマシンは正直に「知らない」と答えますが、トマシンに不信感を募らせているケイトは小言ばかり。犯人のウィリアムは名乗り出ようとしません。

 

このままじゃ飢えると考えた両親はトマシンを奉公に行かせようとしますが、それを拒んだケイレブはトマシンを連れて狩りに出ます。無事獲物をゲットした2人ですが、現れたウサギを追った飼い犬を追いかけてケイレブは行方不明に、トマシンは落馬して気絶します。

ケイレブが追いついた頃には犬は腹を裂かれて死んでおり、怪しい家も見つかります。近寄ると、その中から妖しいうら若き美女が。トマシンの胸元が気になるなど、性的なことに興味を持ち始めたケイレブが動けずにいると、美女は彼に優しくキスしますが、その手だけはどう見ても老婆のものでした。トマシンはウィリアムに見つけられますが、ケイレブは消えたまま。

 

サムと同じようにケイレブも死んだのか……と思ったら、ある夜全裸で帰ってきた彼をトマシンが見つけます。トマシンが駆け寄るとケイレブが倒れますが、絶妙な角度で股間が見えません。これには非常に感心しました(笑)。うわ言を繰り返すなど様子のおかしいケイレブは、顔の横をナイフで切られ血を抜かれますが、これは瀉血(しゃけつ)というやつですね。血を抜いて症状改善を促そうとする行為で、当時のものは医学的根拠のないものでしたが、現在では効果のある瀉血もあるようです。びっくり。

 

白ヤギからミルクを絞ろうとすると血が混ざるなど不吉なことばかり起き、ケイレブは暴力的な、または性的なうわ言を繰り返し、発作のように体を硬直させます。やっぱり魔女に性的に襲われたんでしょうね。ウィリアムは家族にお祈りするよう言いますが、ケイレブを見て怖がるマーシーらはまたトマシンを悪魔呼ばわりし、トマシンが言い返すとお腹を押さえ「祈りの言葉が出ない……」と苦しみます。ケイレブは峠を越えたように、神の姿を認識しその愛を伝えますが、そのまま息を引き取ります。基本地味な本作の中で、この場面が一番演技的にドラマチックですね。ケイレブはまさにエクスタシーに達した状態で死にます。

 

ウィリアムは、わざと双子の祈りを遮ったとトマシンを魔女扱いします(魔女は祈りの句をちゃんと言えないと思われていたらしい)。ケイレブはトマシンと森に行って行方不明になったし、呪われたケイレブを最初に見つけたのもトマシンだと。「真実を話せ」とウィリアムは言いますが、本当のことを言っても信じてもらえません。実際の魔女狩りもこんな不毛な尋問をされたんでしょうね。疑われた時点で、生き延びられる可能性もなくなるんでしょうけど。トマシンは、ウィリアムに「コップの件黙ってたし、ケイレブが森に行ったのも父さんのせいだし、作物の栽培も狩りもできない、娘の話も信じない!」と感情を爆発させます。ここのアニャの演技最高ですね。「娘の話も信じない!」のところが切なすぎます。トマシンが言ってることは正しくて、ウィリアムは割と口だけ野郎なんですよね。この時代の人に言うのもアレですが、トキシック・マスキュリニティ全開です。イモージェン・プーツに鍛え直してもらいな!

 

本当のことばかり言われたウィリアムは、「今のは悪魔が言わせたのか!?」とキレ散らかします。感情が昂っているトマシンは、「悪魔はヤギに姿を変えるから、ヤギといつも喋ってる双子が魔女なんだ」と言ってしまいます。それを聞いたウィリアムは、気絶している双子を問い詰めようとします……ダメですねこいつは(笑)。結局、トマシンは双子とともに翌朝までヤギ小屋に閉じ込められることに。ケイトは、「ケイレブが最期に見たのは神でなく、神を偽った悪魔だったのでは?」なんて言い出します。もはやこれはサイコホラーですね。
 
 
 
夜、「全て自分のせいだと分かってる」と泣くウィリアムを、小屋の中のトマシンは見ています。彼は悪人なわけじゃないんですけどね……心の弱い人間です。そもそも、コミュニティと決別してこんな土地に来る羽目になったのも、彼の傲慢さのせいだし。
ケイトが気が付くと、後ろにサムを抱いたケイレブがいます。追い詰められすぎて、ケイトは疑うことなく受け入れます。ケイレブは「本を持ってきたから一緒に見よう」と。本とは何か? 後で分かります。小屋にいる双子も、いつの間にか何者かが白ヤギを襲っているのに気が付きます。こちらに振りむくとそれは老婆! 双子とトマシンは絶叫すると、狂ったように笑いながらカラスに胸を啄まれているケイトのカットに変わります。一番のショックシーンですね。特にケイトのシーンはけっこう衝撃的です。かなりの傷になってそう……。"ゲーム・オブ・スローンズ"で、ケイト・ディッキーがけっこうキてるキャラ演じてるんですが、それちょっと思い出しました(笑)。
 
 
翌朝。ウィリアムが起きると、小屋が壊れヤギたちが死んでいます。双子の姿もなくなり、トマシンだけが無事です。ウィリアムが呆然としていると、ブラック・フィリップの実に立派な角に突かれ死んでしまいます。起きてきたケイトがそれを見て、「全部お前のせいだ、弟も父親も誘惑したんか」とトマシンを殺そうとしますが、トマシンは落ちていた刃物で反撃し、逆にケイトを殺してしまいます。
 
 
しばらく動けなかったトマシンですが、ブラック・フィリップが自分を呼ぶような素振りをするので小屋に向かいます。半信半疑で、ブラック・フィリップに双子にしていたように自分に話してと言うと、間をおいて本当に喋り始めます。実際に悪魔が化けていたんですね。他にもそう思った人がいるか分かりませんが、ここのアニャの顔がすごくウサギっぽいです。そもそもがウサギ顔なのかな? ユニークな見た目ですよね。魔女を思わせるウサギがすでに何回か出てきてますから、これはすごいなと。アニャ自身は自分の見た目がコンプレックスのようですが、役者として実にイイ顔してますよね。
 
悪魔は、バター、ドレス、魅惑的な暮らしが欲しいかと誘惑してきます。当時のカトリック教会は、バターを食べることをかなり重い罪としていたようです。ドレスも魅惑的な暮らしも、ここにいても絶対に手に入らない物。ダメ押しに、悪魔は「世界を見せてやろう」と言います。ミュージカル映画"イントゥ・ザ・ウッズ"にもメリル・ストリープ演じる魔女が出てきます。彼女は"Last Midnight"というナンバーで「I'm the witch, you're the world(私は魔女で、あんたたちは世界というやつだ)」と歌いますが、除け者である魔女は世界と敵対する……というか望まず敵対させられた存在です。普通に生きていれば享受できたはずの、小さな居場所、世界の切れ端を掴めなくなった存在。当時は不思議な力がなくとも、魔女扱いされた時点で世界とは切り離されます。悪魔は、「想像したことのない経験をさせてやる」という意味と、「お前が普通に暮らせる世界を実現させてやる」という意味を込めて言っているのではないでしょうか。契約したければ、裸になって本にサインしろと言う悪魔。ケイトの前に現れたケイレブも本を持っていましたから、あの時も契約が結ばれたのかもしれませんね。全てから解放されたように服を脱ぎ、サインしたトマシンは森の中で行われていた魔女の宴に参加します。周りの魔女たちは宙に浮き始め、それを見ていたトマシンも浮き半狂乱になって笑うところで映画が終わります。
 
音での驚かし、いわゆるジャンプスケアはなく、あまりにも当時っぽいその雰囲気と不気味さで上手く恐怖感を煽っており、上質なホラーとしてまず楽しめます。セリフの大半は当時の言葉を使っているというその徹底ぶりもすごい。単純なホラーでなく、嫌な家族ものでもありますので、悪魔とか信じてなくても怖さは感じると思います。本作の方が早いですが、そのあたりは同じA24作品の"ヘレディタリー"と共通しています。実は外部の存在の掌で踊らされていたというオチまで! 魔女のレッテルを張られたことで本当に魔女になってしまうというラベリング理論的なオチは、実は魔女映画だった"ジェーン・ドウの解剖"のオチと同じ。そこがまた痛快なんですけど。作物が育たなかったのは麦角(ばっかく)菌が原因のようです。幻覚作用もあるようで、もしかしたら劇中のあれやこれやは幻だったのかもしれません。そうでなくても、集団ヒステリーは起こってましたけどね。
ラストはおどろおどろしくも見えますが、魔女という社会的弱者のリベンジでもあります。"アサシネーション・ネーション"でも描かれたように、現在でも形を変えて魔女狩りは残っているし、女性差別も変わらずあります。トマシンの性的な成長が悪とされたように、女性の性だけが糾弾されることも。このラストに恐ろしさを感じるのは、マジョリティ側の被害者意識がそうさせるのかも?

 

その後トマシンはどうなったんでしょうね。"ドクター・スリープ"レベッカ・ファーガソンみたいになったんでしょうか(笑)。アニャ・テイラー=ジョイはまたロバート・エガースと組んで、新作の"The Northman"に出演しています。何でも、10世紀のアイスランドを舞台に、父を殺された王子が復讐を企てるという内容のようです。それも楽しみですが、まずはやはり"ライトハウス"! 相当な怪作らしいですよ。"ファブリック"とタメ張るかもね。

 

Rotten Tomatoes  90%,59%
IMDb  6.9
この5年前の"ウィッチ"から現在まで、全然年を取ってないように見えるアニャ。まさにウィッチ。