Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"モーニング・パトロール(Proini peripolos)"(1987)

ギリシャは映画界における秘境なり。

 

公式トレイラー


Morning Patrol/Πρωινή Περίπολος Trailer

 

VHSジャケット

 

f:id:heiro_chloe:20210310173856j:plainf:id:heiro_chloe:20210310173850j:plain

item.rakuten.co.jp 

 

VHS。ギリシャ映画。何と甘美な響きなんでしょうか。VHSでしか出てない映画って、ものすごく好奇心をかきたててくれます。Heiroが小さい頃にはDVDでなくVHSで映画観てたわけですが、すでに今ではDVD化されたものばかり。VHS、VHS言ってますが、当然そういう映画のクオリティが保証されてるわけじゃありません。神格化しちゃいません。観てみたら大したことなかったなんてことも、今の映画を観るのと同じでそりゃ山のようにあるでしょう。懐古趣味でもないです。昔あんな映画あったなぁなんて、体験に基づいた記憶も大してないし。全ては後から存在を知った作品ばかり。

でも、未DVD化映画と聞くと心がザワザワする。単純に観たことない映画に対する興味とはまた別の……例えば今じゃ倫理的にアウトな作品とか(笑)、ヘンすぎて大衆に理解されないとされた映画とか……。観れないことにはこっちは何の判断もできないのに!

 

日本に入ってくるギリシャ映画って、そう多くないですよね。有名なのはテオ・アンゲロプロス作品とかですか。最近だとやはりヨルゴス・ランティモスですよね。"マンディ 地獄のロード・ウォリアー"のパノス・コスマトスはギリシャ人監督のジョージ・P・コスマトスを父に持ちますが、本人はカナダ人のようですし。

ギリシャ映画には、マンブルコアのように日本であまり知られていないGreek Weird Waveと呼ばれるムーブメントがあります。それこそヨルゴス・ランティモス"籠の中の乙女"や次作の"Alpeis"(日本未公開なので未見)、アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督の"Attenberg"(同じく未公開なので未見)に端を発するものです。ちゃんとした訳語も定着していませんが、「ギリシャの奇妙な波」などと呼ばれることもあります。"籠の中の乙女""ロブスター"を観ると分かるように、まさに奇妙で寓話的なテイストが共通している作品群のようです。ギリシャの経済危機がギリシャの映画業界にも深刻なダメージをもたらしたことから、半ば必要に迫られた形で起こった進化、それが「ギリシャの奇妙な波」。ランティモス、ツァンガリはお互いの映画の製作をしたり、プロデューサーや俳優となって手助けしてどうにか映画を完成させていたようですから、切迫度は違えどマンブルコアのようなことをしていたとも言えるかも。マンブルコア作品はちょいちょい日本に入ってきてるので、「ギリシャの奇妙な波」も日本で特集されれば良いのにね。日本でもこれだけ知られてきたランティモスの"Alpeis"も未だに入ってこないし。あ、でもツァンガリ"Chevalier"("ストロングマン 最低男の男気大決戦!!"というすごい邦題になってはいるが)はソフトが出てるので日本で観れます。偉い。

マンブルコアの説明についてはこちらをどうぞ。↓

 

 

あらすじのようなもの

近未来、記憶喪失で自らの名前も思い出せない主人公の女が、「パトロール」によって監視され禁断地帯となった廃墟の街を彷徨う。旅を続けるうち、遠い昔に干上がったといわれる伝説の海を探すため西に向かうことになるのだが、殺人もいとわない「パトロール」の男と出会ってしまい……。

 

スタッフ・キャスト

監督は"シンガポール・スリング"(これも変態的怪作らしい)のニコス・ニコライディス。

主演は"籠の中の乙女"にも出演した(!!)ミシェル・ヴァレイ。他。

 

 

まず"モーニング・パトロール"というタイトルが良い! その設定や、数えるほどしか見つかりませんが観た方の感想から、アンドレイ・タルコフスキー"ストーカー"的な世界観が想像されます。トレイラーでも、水の滴る廃墟の映像が……まんま"ストーカー"じゃん! ディストピアものでもありそうだし。どうやら明確なストーリーはないようで、まさにアート的というか、その雰囲気を楽しむような映画のようですが、最近あんまりそういう映画もないですもんねえ。昔はけっこう攻めた作品が日本でも観られたんだろうと思ってるんですが、ただの幻想なのかな? 言語化できないのに何か面白い作品こそ本当に価値がある気もしますし、理解の範疇に収まっているものばかり観てもつまんないもんね。というか、昔っからギリシャ映画奇妙じゃねーか! 主演のミシェル・ヴァレイが、本作の約20年後に"籠の中の乙女"に出たという事実も驚き。「ギリシャの奇妙な波」は今に始まったことではないのかもしれない……。

 

VHSって、一応今でも通販とかで買えるし、一部のTSUTAYAでもレンタルしてるし、VHS専門ネットレンタル会社もある(K-PLUSとか。素晴らしい仕事ですね)ので、どうしても観れないってわけじゃあないですが、ハードルも少し高いですよね(どうせいつか手を出すと思いますが、今はまだ……)。現在、Netflixノア・バームバック"彼女と僕のいた場所"が観れますが、これは未DVD化映画です。こんな感じで、未DVD化映画ばかり集めた配信サービスが始まったらHeiroは即加入しますよ。お願い偉い人。そういう意味では、ホラー専門配信サービスOSOREZONE(オソレゾーン)にはさらなるラインナップの充実を期待しています(1か月前の"ズーム/見えない参加者"レビューでもそれ言ったっきりまだ加入してない人)。

 

手を伸ばせば届くし触れたいけど、何となくまだ触れたくもないような、相反する欲求がたまらない気分にさせる未DVD化映画の世界。この秘境は北センチネル島みたいなもんですよ(笑)。でもまあ、いつか、いつかね。

 

 

Rotten Tomatoes  N/A,N/A

IMDb  7.0

"ストーカー"の「ゾーン」に、未DVD化映画サブスクの発足を切に願うぞ!