Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"Little Fish"(2020)

これが本当の「いまを生きる」

(※"スポンティニアス""サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~"の核心に触れています) 

 

公式トレイラー


Little Fish - Official Trailer | HD | IFC Films

 

またこのコロナ過の状況を思わせる内容の映画が出てきたようです。テーマはさすがに違うだろうと思いますけどもね。"スポンティニアス"にもコロナ過的な描写あったし、奇病が蔓延って設定も共通しているようです。

 

あらすじのようなもの

そのウィルスに感染すると記憶を失うNIA(Neuro-Inflammatory Affliction、直訳で神経炎症性苦痛?みたいな感じ)という奇病が蔓延した世界。NIAに罹患したジュードとその妻のエマ、若い夫婦の2人は記憶を失うことに怯えながらも、どうにか関係を維持して生き延びていこうとする。

 

スタッフ・キャスト

監督は"アメリカから来たモーリス"のチャド・ハーティガン。

エマ役には"サラブレッド"のオリヴィア・クック、ジュード役には"名もなき塀の中の王"のジャック・オコンネル。他。

 

 

Heiroの場合、20歳超えたあたりから確実に記憶力がダウンしてます。記憶力というか、記憶の引き出し力? ワーキングメモリー(ある作業をする間、記憶を留めておく力)と言った方が良いのかな。高校生の時は言いたい言葉を素早く的確に取り出せてたと思うし、途中で何か新しい別のことをし始めても直前に考えてたことを記憶し続けられてたんですが、今は俳優の名前も思い出せないことあるし、チンしたおかずをレンジの中に残したままにしてたりね……。この間、友だちから"テイク・シェルター"の話を振られてマイケル・シャノンの名前をド忘れしたのは一生の不覚でしたね。ガビン。

 

記憶とは何なのでしょうか。当然、Heiroは自分が産まれた瞬間を憶えていませんが、自分の誕生日を知っています。親からそう聞いたから。幼い頃にどんな行動をしたのかも知っています。親からそう聞いたから。何となく憶えてるおぼろげな記憶もありますが、それって本当にあったことなんでしょうか? 後から聞いた別の話や見た映像に影響されて作られたものなんじゃ? 思い違いとかもよくありますしね。人は記憶に頼って生きていくしかないのに、記憶というものは土台にしちゃかなり心許ないものですね。記憶をテーマにしたミステリーやスリラーなんて死ぬほどありますが、その不確かさ故ですよねえ。"メメント"とか。最近もそういう作品多くて、大評価されてる"Relic"認知症ホラー、5月から公開予定の"ファーザー"認知症ドラマのようだし。

本作と似たような設定の映画では"パーフェクト・センス"ってのがありましたね。人の五感を奪っていくウィルスの話でしたけど。あっちよりも、本作の方が万人の共感を呼びそうな感じですね。記憶力は誰でも老化とともに失うから。ただ本作が怖いのは、NIAになると手続き記憶も失われるらしいこと。手続き記憶とはいわゆる「体が覚えていること」で、トレイラーの中では船の操縦方法を忘れた漁師が泳いで陸に戻ろうとしたり、パイロットが飛行機の操縦方法を忘れて事故を起こしたりしていると語られます。現実には認知症になっても手続き記憶は最も失われにくいらしいので、映画ならではの面白い設定ですね。「忘れている」ことは意識しなければ気づけない、というポイントもスリリングに機能していそうです。

 

エマはジュードに対し、「私が誰か憶えてる? 年齢は? 好きな色は?」と聞いています。ジュードは答えられてるように見えますが、もはや確かなものなどありません。もしエマが嘘をついていればジュードの確信などもろくも崩れ去ります。エマは実はジュードの夫でもなかったりして? 何も信じられません。エマが全て本当のことを言っていたとしても、同じ出来事を皆が同じように記憶するわけではありませんよね。ジュードの記憶をエマが埋めていくのは生々しく「私色に染め上げる」行為と言えなくもありません。ジュードは新たな記憶も獲得しづらくなってしまっているのでしょうか? 気になるところです。

 

記憶を失くしたまま生活するというのは、文字通り「いまを生きる」ことなのかもしれません。正確に言えば「今しか生きられない」ですか。今の一瞬一瞬しか捉えられずに。どれだけ刹那的に生きている人も、その人にとっては確固たる過去の記憶を土台にした上でそう生きているわけですから、ジュードの場合とは比較できません。でも、そんなジュードが今しか生きられないことに価値はないのでしょうか? Heiroが愛読している漫画"パンプキン・シザーズ"(超傑作!)からこのセリフを引用します。

「やがて失うものに意味がないのなら、あなたの命もまた無意味でしょう。時か病か刃か、いずれは奪われる。ならば今すぐ死にますか?」

以前紹介した"サウンド・オブ・メタル"も、万人がいずれ失う聴覚をテーマに、過去の残滓に囚われずに前を向いて生きることを描いていました(オリヴィア・クックも出てる!)。"スポンティニアス"も似たテーマでしたね。「カルペ・ディエム(Carpe diem≒今を生きろ)」です。時間は前にしか進みませんからねー。

 

物語の鍵になりそうなのが、タイトル"Little Fish"が指す小さい魚。ジュードによれば、ある日エマがペットとして魚を購入したようです。そしてジュードは体にその魚のタトゥーを入れたようですね("メメント"っぽいね!)。魚はかつてキリストのシンボルとして使われました。この魚がジュードにとっての救世主となるか? いつか、もしかしたらすでに我々を蝕んでいる心を死に至らせる病についての話でスリリングですが、トレイラーを見る限り、どちらかといえば儚いロマンスの方が強く押し出されている気がします。日本じゃあまりオリヴィア・クックの認知度は高くないと思うので("レディ・プレイヤー1"にも出たのに!)、日本公開は決まってませんが、本作のことは「忘れず」にチェックし続けていきたいと思います。

 

 

Rotten Tomatoes  91%,79%

IMDb  6.9

ねえ。今日が何の日か憶えてる?(ギク)