Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"アサシネーション・ネーション(Assassination Nation)"(2018)

暗殺というより公開処刑では?

 

公式トレイラー


Assassination Nation [Trailer] - In Theaters September 21

 

ここんとこ好みド真ん中な映画ばかり当たってきましたが、やっと(?)合わない映画が出てきました。うん。何かすごい思ってたのと違った。

 

あらすじ

かつて魔女狩りのあった地、セイラム。市長のセクシャルなスキャンダルが何者かに流出させられたのを皮切りに、町の住民のプライベートな写真も流出。ハッカーIPアドレスと一致したために犯人と見なされたただの女子高生リリーは、住民たちから命を狙われる羽目に……。

 

スタッフ・キャスト

監督は"アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち"(未見)を手掛け、"レインマン"で有名なバリー・レヴィンソンの息子でもあるサム・レヴィンソン。

主演は"スウィート・ヘル"オデッサ・ヤング。他には"マッドタウン"(観ようと思いながらまだ観てない!)のスーキー・ウォーターハウスなどが出演。

 

 

オープニング、クレジットがトリコロールで、i が小文字で表記されているのを見て真っ先に"バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)"思い出しました。そっちはトリコロールじゃないですけどね。"バードマン"観た時、iだけ小文字なのはi(「私」)が分裂してるからじゃないかと思ったんですが、その後町山智浩さんの解説聞いて、それがジャン=リュック・ゴダール"気狂いピエロ"(観てない!)へのオマージュだと知りました(笑)。トリコロールと言えば青、白、赤のフランス国旗が有名ですが、アメリカの国旗も同じ三色なんですよね。"気狂いピエロ""バードマン"に共通するのは、監督自身の自虐的な笑い。サム・レヴィンソンがゴダールに影響受けてるかは分かりませんが、本作では監督自身の自虐というよりアメリカ人として自国を皮肉ってるのかなとも思ったり。テーマ自体は国を問わないものですけど。

 

最初に「本作にはこれこれこういう要素があるので注意してね」と警告が出るのは斬新で面白かったですが、観る前に勝手に思っていたタランティーノ的なアクションはありませんでした。結果、あんまり乗れませんでしたね。

セーラムを舞台に現代の魔女狩りを描くというコンセプトも面白かったんですが、主人公のリリーはお隣の旦那さんにセクシー写真送ってたりするもんで、イマイチ感情移入しにくいんですよね。先に手を出してきたのはお隣のバカ旦那の方ですが、リリー自身ももう高校生ですからね……と思ったら、ハリウッド女優とかもよく同じことになってますね(笑)。笑い事じゃないけどさ。日本でもたまに、リリーと同じかもっと若い子が同じようなトラブルに巻き込まれてるのをニュースで見ますから、リリーにそういう設定をくっつけたのは分からなくはないですが、だからといって面白くなるとは限らないんだよなー。

 

自分の幼い娘の写真(裸だけど本当に小っちゃい子ね)を持ってたためにロリコンと糾弾される校長先生とかが出てきますが、リリーは糾弾に加担せず「裸=いやらしいではないでしょ」と言い放ちます。そのセリフには同意できるんですけどね。リリーの両親は糾弾賛成派で「自分の子どもに了承も取らずに」と言います。それも人権重視してるっぽいセリフで面白いですね。確かに了承は取ってないけど、そういう写真を持ってただけでロリコンと言う方がロリコン的じゃないのかと。だって娘とはいえ2歳とか3歳とか(だったかな?)ですよ。普通ヘンなこと思わないですよ。言ってる人の自己投影っていうか、鏡だなぁと。まあその校長は写真をパソコンに保存してたから流出させられちゃうんですけどね。

「裸≠いやらしい」の方程式を大人の女性に当てはめると話はややこしくなりますよね。そういう社会規範へのアンチテーゼを掲げて活動してるアーティストもいますし。本作でも、リリー含め仲間たちはセクシーな感じに撮られています。自己判断にすぎませんが、Heiroがそう捉えただけというわけではないと思います。少なくともリリーはバカ旦那を喜ばせるために写真送ってるしね。リリーにそういう意図がなく、バカ旦那が勝手にそう捉えた、という風には本作は撮られてないです。よく女性が、好きでセクシーな格好をしてるのに男性に勘違いされるみたいなトラブルありますよね。リリーの場合はそれと違うので、「裸≠いやらしい」論はそんなに本作に関係ない気もします。関係してた方が面白かったと思うんですが。トルコ映画"裸足の季節"にもそんな要素なかった? 忘れたけど。

一応、スキャンダルで自殺する市長はゲイ、ロリコン認定される校長は黒人、犯人扱いされるリリーは女性と、社会的弱者が魔女狩りに遭ってますが、白人男性の場合は魔女狩りされにくいみたいな描写もあれば良かったですね。現実にそうなのかは分からないですけど。

リリーの仲間たち(観てないけど、"スプリング・ブレイカーズ"っぽくない?)の明確なキャラ描写があんまりないのも良くないポイントです。Heiroが2020年ワースト2に選んだ"ブラック・クリスマス"の方がキャラが立ってた気がします。

 

ただ、トランスジェンダーのベックス役を演じている、実際にトランスジェンダーのハリ・ネフを見て「めっちゃこの人ブリット・マーリングに似てるじゃん!」とおったまげました。ブリット・マーリング好きなんですよ。"アナザー プラネット"(大好き!)とか"アイ・オリジンズ"(まあまあ)とかに出てる女優ですね。あ、一番有名なのは"ザ・イースト"かな? 最近映画出てないけどどうしてるんだろう。ブリット・マーリングは知的な美しさがたまらんですが、ハリ・ネフも相当美人ですね。実は、本作観てる間、彼女(ベックスとハリ・ネフ)がトランスジェンダーと気づきませんでした(笑)。吹替で観てたからかなと思って彼女自身の声も確認しましたが、女性の声にしか聞こえませんね。劇中、ベックスは気になる同級生と関係を持つも相手から「このことは口外しないで」と言われます。Heiroは「この相手、本命の彼女とかいるのかな」と勝手に脳内補完して観てましたが、トランスジェンダー差別描写でした。ほんとポンコツですみません……。

 

リリーがセイラムの住人に命を狙われて、家に刺客が侵入してくるところの長回しはすごかったですが、全体的にスピード感なくてダウナー系なんですよ。それが登場人物たちのキャラクターと合ってないと思うんですよねー。劇中で言及されるように、"わらの犬"を参考にしてラストのラストまでカタルシスはお預けにしてるんだとは思いますが("わらの犬"カタルシスは観客へのトラップだしハッピーエンドでもないですが)、いかんせんそれまでに気持ちが離れちゃうんですよね。タランティーノ作品で言えば、"ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド"カタルシスのあるバイオレンス(やりすぎだけど)はラストまでないですが、それまではディカプリオが泣いたりディカプリオが泣いたりして笑わせてくれるじゃないですか! 本作はそれがない。初めて見たオデッサ・ヤングは可愛かったですけど……。後、ラストの銃撃戦、射線切れ!! リリーよ、日本映画観てるのに"ブルータル・ジャスティス"観てないんか!!

 

去年、Netflix"猫イジメに断固NO!"という、邦題からは全く想像できないところに着地するドキュメンタリーを観ました。ネットに挙げられた猫虐待の動画を見た猫愛好家たちが、素人探偵として犯人を探し出そうとする話なんですが、途中で間違った人を犯人扱いしてしまって、その人が自殺するという展開がありました。ネット社会だと一気に「1人対何千何万それ以上」の構図になりますからね。恥ずかしながら、最近やっと"新世紀エヴァンゲリオン"観て「おおセカイ系だな」と思いましたが、今の世の中も似たようなことになってますね。個人が一気に世界に繋がれますからね。壊れるのは世界でなくて個人の人生の方ですが。ネット上の魔女狩りは、正義感、そしてちょっとの悪意と好奇心さえあれば簡単に発生します。ヤバい写真などの「魔女の儀式の証拠」や、一度魔女とされた烙印は消せませんし。過去のツイートなどが掘り起こされて問題になることもよくあるし。かつての魔女狩りの時代より、現代に生きる我々の方が人生ハードモードかもね。

 

 

結局、リリーの弟が真犯人だったという皮肉なオチがつきます。犯行の理由を問われても、ことの重大さに気づいていないように「遊びかな(吹替の場合。字幕では「ウケ狙い」と言ってる)と答えます。それでそのまま終身刑に……(と劇中で言われていましたがあの歳でそこまでの刑になるのかな)。憎らしくはありますが子どもですからね……。あんまり後味は良くない(大人で故意に個人情報流出させるヤツは厳罰でOK!)。

リリーらもある程度は住人(「村人」と表現したいくらい)を倒しますが、大勢と銃を向け合った状態で映画が終わります。カタルシスはやはり微々たるものでした。だってあの後リリー絶対死んだでしょ! "わらの犬"イズムかもしれないけどさ、そもそもHeiroは"わらの犬"好きじゃないんですよ(笑)。まあ現代の魔女狩りは今も続いているぞ、って終わり方なんでしょうが。"ブラック・クランズマン"のラスト的な? Assassination Nation(暗殺国家)とは、敵を見つけるとすぐに集まって、排除すると散っていく、形のないネット上の集団のことなんでしょうかね。

 

拡散されるとまずい個人情報も自分から発信しちゃう、安全欲求より先に承認欲求の充足を求めがちな現代の側面はあまり描かれておりません。ブログとかTwitterやってる時点で、承認欲求至上主義を笑うことはHeiroにもできませんけど。そこの描写もあれば良かったとは思いつつも、そのテーマなら別の映画1本作れるわな。

Heiroの好みではありませんでしたが、かなり気に入ったという方もチラホラ見かけます。スプリットスクリーンとか使って映像で遊んでるしね(だったらもっとアッパーに作ってほしかったけど)。まあまあだという人があまりいなくて、賛否が分かれているようです。もし気になった方は観てみても良いかもしれませんよ。でも個人的には、魔女つながりでロバート・エガースの"ウィッチ"とか観た方が良いと思うけど。

 

 

★★★★  4/10点

Rotten Tomatoes  74%,54%

IMDb  5.9

好きな人には申し訳ないけど、2021年ワースト候補入りかも……。