Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

Heiroによる、辺境の映画・音楽を紹介・レビューするブログです。(映画レビューの際はのっけからしこたまネタバレします。映画は★、音楽は☆で評価) ツイッターアカウントはこちら→https://twitter.com/chloe_heiro0226

"プラットフォーム(El hoyo)"(2019)

重力は貧富の格差さえ支配する

 

公式トレイラー


その“穴”は世界を変える『プラットフォーム』1.29(金)公開【予告】

 

個人的には"エスケープ・ルーム"以来?のシチュエーションスリラー。そこに最近色んな映画で見るテーマをぶっこんで、スパニッシュ味に仕立てました。どうぞ召し上がれ。

 

 

あらすじ

目が覚めると、ゴレンは「48」とナンバリングされた、コンクリートに囲まれた狭い部屋に閉じ込められていた。部屋の中央には四角い穴が開いており上下に同様の部屋がいくつも続いている。唯一の同居人トリマカシに尋ねると、その施設の概要が分かった。上階に行くほど数字が小さくなること、時間になると穴を通して上階から順に食事が下りてくること、1か月ごとに階数がシャッフルされること……。降りてきた食事を目にしたゴレンは驚愕する。その食事は上階の人間に食い散らかされた残飯だったのだ……。

 

スタッフ・キャスト

監督はこれが長編デビュー作となる、スペイン出身のガルダー・ガステル=ウルティア。

主演は"パンズ・ラビリンス"のイバン・マサゲ。他に"オール・アバウト・マイ・マザー"のアントニア・サン・フアンなどが出演。

 

 

シチュエーションスリラーと聞いて、まず思い出したのはやはり"キューブ"。あれもスペイン映画だもんね……って一瞬思ったけど、カナダ映画だよ! 危ねえ。ヴィンチェンゾ・ナタリなんて名前だから騙されたぜ……。ヴィンチェンゾがスペインの名前かは知らないけど。

Heiroのベストスペイン映画は"永遠のこどもたち"ですね。J・A・バヨナ監督が好きなんですよ。"怪物はささやく"も良かったね。"ジュラシック・ワールド/炎の王国"の後は新作撮ってないしまだ次回作決まってもないみたいだけど。

"ネスト"って映画もけっこう良かったな。悲しい話なんだけどね。スペインの監督ナチョ・ビガロンド"シンクロナイズドモンスター"もね(あれをスペイン映画として挙げるのもアレだけど、一応スペインも製作国なんで……)。後は"ブランカニエベス""マローボーン家の掟"とかも良い映画でしたねぇ。あ、"マジカル・ガール"(……はあんまり刺さらなかった)のカルロス・ベルムト監督の"シークレット・ヴォイス"を観よう観ようと思いながら忘れてた。今ならNetflixにあるからね。皆さんも観ましょう。

ああ、そう言えばアレハンドロ・アメナーバル監督の"オープン・ユア・アイズ"は特に素晴らしい作品ですよ! ハリウッドでトム・クルーズ主演で"バニラ・スカイ"としてリメイクされてます。どっちも好きだけどまずはやっぱりオリジナルかな。"バニラ・スカイ"でもオリジナルと同じくペネロペ・クルスがヒロインやってるのには笑ってしまいますが。アメナーバルがイーサン・ホークエマ・ワトソンで撮った"リグレッション"は未見ですが、すこぶる評価悪いんだよなぁ……何でかなぁ。

話をシチュエーションスリラーに戻すと、階層がシャッフルされるとか、ご飯時間過ぎても食べ物を隠し持っているとそのフロアが灼熱の暑さ/極寒の寒さになるとか、そういうルールだけでまず一定の面白さは担保されてますね。

 

さて本題。この"プラットフォーム"、早い話が縦版"スノーピアサー"ディストピア"ハイ・ライズ"ですよね。個人的には、"スノーピアサー"よりスリリングで、"ハイ・ライズ"よりエンタメ度高いと思いましたよ!

まず、各階を行き来する台(プラットフォーム)に乗ったゴチソウのビジュアルが素晴らしいね! 上階から降りてきた時点でそれはすでに残飯であることに違いはないのですが、何か退廃的な美が感じられます。うーんデカダンス。原題の「El hoyo」は「The Hole」、つまり穴を意味しています。

冒頭、コンクリートに金属を打ち付けるような印象的な音から始まり、「この世には3種類の人間しかいない。上にいる者、下にいる者、転落する者だ」とナレーションが入ります。不可抗力で転落することはあっても、自動的に上に行く人はいません。本作のVSC(Vertical Self-Management Center/垂直自主管理センターだっけ?)では1か月ごとに階層が入れ替わるので現実世界よりはマシな気もしますが、穴から身を投げる人もチラホラ。"クラウド アトラス"がオールタイムベストのHeiroには、ランダムに別の階層になるというのは輪廻転生して別の貧富のレベルに産まれることを意味しているようにも思えます。

"パラサイト 半地下の家族"でも、下に住む者には水の被害が押し寄せてましたね。ニール・ブロムカンプ監督の"エリジウム"では、富裕層は文字通り天上の存在というか、もはや宇宙に住んでました。どこの国でも上が良くて下は悪いイメージなんですね。これって地球に重力があって上に行くのは難しいことだから、そういう共通認識ができあがったんでしょうか。もしも地面にしがみついてないと大気圏外に飛ばされるみたいな世界だったら、下が良くて上が悪いイメージだったのかなぁ。そんなところで生命は生きられないと思いますけども!

 

VSCのあまりのひどさに、ゴレンは最初こそ上の階や下の階の人に話しかけようとしますが、トリマカシから現実を教えられ「どうせ無駄だ」と思い始めます。後に、理想主義者のイモギリがかつてのゴレンのような振る舞いをしても、ゴレンはトリマカシ化してしまっているのでそれを嘲笑います。他階の人の話を聞かない人物に自らがなってしまったのです。カメラが穴を上下に捉えるカットでは、階が無数に続いていくように見せていますが、これは合わせ鏡をした時の光景によく似ています。いつしか相手と同じ姿になっちゃったんですねぇ。

 

子どもを探しながら各階を彷徨う殺人ママ、ミハルを演じているのはアレクサンドラ・マサンカイ。フィリピン系スペイン人女優のようです。ミハルって名前、前にも聞いたことあってミシェル(Michelle)とかのスペイン語人名かなと思ったら、Miharuというスペルでした。完全に日本人じゃん! 前に聞いた方のミハルはMichalで、たぶんマイケルのチェコ(らへん?)語人名ですね。他にもサムライ・プラスなんて名前のナイフが出てきたり、VSCには1つ好きな物を持ち込めるので日本刀を選んでる人もいました。スペイン映画になぜこんなに日本要素が。嬉しいけども。基本この映画笑いは皆無なんですけど、ビニールプールとかサーフボード持ち込んでるのはシュールでしたね(笑)。ちなみに、プールに入ってた2人は本作の脚本家たちのようです(笑)。

 

イモギリが持ち込んだ犬の名前はラムセス2世でした。ラムセス2世は実在した古代エジプトのファラオですが、映画ファンには別名のオジマンディアスの方が馴染みがあるかもしれません。"ウォッチメン"の中で人類一の天才ヒーローがオジマンディアスでしたね。イモギリは元々管理者側の存在で、このVSCについても肯定的に捉えていました。だからこそ偉大な統治者の名を冠していたのですかね。

 

この映画、至るところでキリスト教的な描写が見られますが、Heiroはそこらへん疎いのであんまり読み解けませんでした。トリマカシがゴレンにリンゴを投げるのはサタンっぽい("名探偵コナン"で、禁断の果実がリンゴというのは俗説だと言われてましたけど!)し、イモギリの死体をゴレンが食べるところとかもキリスト意識してそうだし。映画の教会のシーンとかでよく言うパンとワインがキリストの肉と血を表してるんですよね? 確か。イモギリの死は、管理者たちが彼女ら身内にも嘘をついていたことや、自分の行動で他人を変えられなかった絶望によるものでしょうが、ゴレンを生かすためでもありましたからね。そもそも、このVSC、最下層の正しい階数が何なのかが中々判明しないんですが、終盤で333階なのが分かるんですが、各階に2人ずつ容れられてるから単純計算で666人いることになるんですよね。666っていわゆる獣の数字ですよね! 不吉なやつ! オーメン! アーメン!! ところで、食人シーンでモザイクかかるのが気になって気になって……。本作はR-15になってますけど、他のシーンではモザイクないのに、見た目が飛び抜けてグロいわけではない食人シーンがモザイクなのは倫理的にアウトだからなんですかね。これ無修正だとR-18になっちゃうの? Heiroは18歳過ぎてるので勝手なこと言いますが、モザイクあると冷めるんだよな! 食人シーン見せろ! 食人シーンそのものが見たいから言っているのではない! モザイクは作品の価値を損なうからだ! 早く! 早く食人シーン見せろ!!!(迫真)

 

最下層には、なぜか子どもが。イモギリは子どもはVSCには入れないと言っていたのに! ミハルはここまでに死んでしまいますが、証拠はないけど彼女の子だろうと観客は思います。トリマカシが、「毎月ミハルが降りてくるのを目にする」と言ってた気がしますが、それってミハルはプラットフォームに乗って最上階に行ってたってことですかね? 上から降ってくる死体は自殺者以外にミハルが殺した人のものでもあったのかも。だから、子どもとはちゃんと会えてたけど食料を調達しようとしてたとか。推測ですが。よく子ども無事だったな。ゴレンは子どもと一緒にプラットフォームで上昇しようと考えますが、脳内の亡霊トリマカシに「管理者に送るメッセージは1人で良い」と言われ、そのままゴレンはトリマカシと暗闇に去ります。シブい。何だかんだ言って良い関係です。ゴレンはVSCを変えるためとは言え、人の肉を食らい殺してもいますから、地獄に落ちたまま救われないという意味でしょうかね。アツい。

無傷の子どもを無慈悲な管理者たち(まずは料理を作っている現場のシェフたち)に見せて効果があるかは分かりません。観客に委ねる形で終わりますが、あまり希望を感じられるエンディングではありません。本作は資本主義のみを批判しているのではなく、ゴレンたちが強制的に行おうとした社会主義も上手くいかないというように描いています。しかし、ゴレンはやろうと思えばできるのに誰もしなかった、プラットフォームで最上階へ行き革命を起こすことに挑戦しようとします。ゴレンがVSCに持ち込んだ"ドン・キホーテ"のように、社会という強大な敵に立ち向かいます。どれだけ理不尽なルールにでも、大抵の人間は従ってしまうのに。有名なスタンフォード監獄実験みたいにね。ゴレンはエスカルゴが好きだったのでトリマカシに「カタツムリ」と呼ばれますが、カタツムリは遅くとも着実に進みます。このカタツムリ精神が、ミハルの娘のような我々の子ども世代にも引き継がれ、さらに世の中を向上させていくと良いですよね。重力が貧富の格差まで支配するなんて、そんなの言葉遊びにすぎないはずだ!

 

あー、ところで、途中料理に髪の毛落としちゃってしこたま怒られてるシェフの兄ちゃんいましたよね。あの人、その後ここに収監されたりしてないよね??

 

 

★★★★★★★☆  7.5/10点

Rotten Tomatoes  80%,71%

IMDb  7.0

嘘でも良いから「ウミガメのスープだよ」とか言ってくれる人がいれば……(モロバレ)。