Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"ロッジ -白い惨劇-(The Lodge)"(2019) Review!

ある意味、"禁じられた遊び"

(※"グッドナイト・マミー"、"ヘレディタリー/継承"、"シャイニング"の内容に触れています)

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公式トレイラー


The Lodge

 

 "グッドナイト・マミー"に続く、監督らの最新作。"グッドナイト・マミー"に比べると、ハリウッドキャストも出てるしかなり見やすくなった印象。しかし共通する要素も確かにあり、何より前作同様、超陰鬱! オススメ!

 

あらすじ

ホール家の父親リチャードは妻のローラと別れ、新たな若い恋人のグレイスと再婚する気でいた。クリスマスの休暇に、リチャードと幼い兄妹のエイダンとミア、そして継母になるであろうグレイス4人で雪山のロッジに宿泊することになるが、リチャードは仕事のため戻ってしまう。子どもたちはグレイスを受け入れられないが、それには母親のローラを愛していること以外に、グレイスに集団自殺を決行したカルト集団にいた過去があるためで……。

 

キャスト・スタッフ

監督は"グッドナイト・マミー"のヴェロニカ・フランツ&ゼヴリン・フィアラ。

グレイス役に"アンダー・ザ・シルバーレイク"のライリー・キーオ。エイダン役に"IT/イット "それ"が見えたら、終わり。"シリーズのジェイデン・マーテル。ローラ役に"聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア"のアリシア・シルヴァーストーン。他。

 

 

まず本作と関係ないどうでも良いことですが、最近「2回言うなよ」みたいな邦題ありますよね。上記の"IT"の後編は"IT/イット THE END "それ"が見えたら、終わり。"だし、"聖なる鹿殺し"で原題("The Killing of a Sacred Deer")を訳せてるのにその後カタカナつけちゃってるし。"IT チャプター2"で良いやん! "聖なる鹿殺し"だけで良いやん! それか、カタカナで書くなら文頭の「ザ」を入れろ! なぜ途中の「ア」だけ律儀に入れてるんだ!! なんだかなあ。"スケアリーストーリーズ 怖い本"とかもね。そこまで説明しなくても分かるよ。

ということで本題。

 

映画が始まってすぐ思ったのは、アリシア・シルヴァーストーンとライリー・キーオが似ているということ。これはおそらく意図的なキャスティングで、リチャードはきっとこういう顔がタイプなんですよ。そう考えると、グレイスはローラと同じ顔でローラより10歳以上若いから乗り換えたようにしか見えません。この時点でまずリチャードは人としてアウト(リチャード役のリチャード・アーミティッジとライリー・キーオは約20歳差!!)。こういうかなり年上の男性が若い女性と結婚することは多いですが、男性による搾取に見えちゃいます。逆はあんまりないですもんね。だからアーロンとサム=テイラー・ジョンソンみたいな夫婦には好感持ちます(サムの方が23歳上)。ここがまず本作の不快ポイントのひとつ(褒めてる)。そして、リチャードから、グレイスと再婚したいので離婚しようと言われたローラは即"ファイト・クラブ"撃ちで自殺します。ローラはどうやら精神的に不安定な人物であることは示唆されていましたが、躊躇いがなく観客をビクッとさせるタイミングも不快(もちろん褒)。さらにその後、ローラの葬儀で黒い風船を空に飛ばすところで、ミアが母親を模した人形をくくりつけた風船だけが重さで飛ばず、泣きながら人形を繋ぐヒモを無理やり引きちぎって風船を放つ、その動作もすべて不快(すごい!)。ここまでの流れ、何から何まで嫌な感じを漂わせたまま進みます。

それから半年後。リチャードは子どもたちの前でグレイスとの再婚話を蒸し返します。一応ローラの死から半年待ってはいますが、その件が原因でしたからね。リチャードは分別があるのかないのか。子どもたちはそれに大反対し、会ったこともないグレイスをサイコパス呼ばわりします。ローラの死に関係しておきながらぬけぬけと父親と交際を続けているからかなと思ったら、何やら彼女は有名人のよう。子どもたちがネットでグレイスについて調べると、集団自殺事件を起こしたカルト教団の唯一の生き残りで、教祖の娘と判明(ちなみに、教祖であるグレイスの父親を演じているのはライリー・キーオの実の父であるダニー・キーオ。ダニー・キーオはこれが映画初出演。どういうキャスティングなのよ)。確かにヤバそうですが、リチャードの希望で雪山のロッジに4人で泊まりに行くことに。行きの車中、エイダンは後部座席から助手席のグレイスを見ていますが、ミラー越しに目が合ってニッコリされ目を逸らします。あまりに無害そうだからなのか、美人過ぎるからなのか。

ロッジに着いて雪遊びをしていると、グレイスが被っていた帽子がローラの物だと子どもたちに指摘されてしまいます。グレイスは申し訳なさそうに帽子を返しますが、雰囲気は最悪。上手いのが、まだ観客はグレイスに心を開けていないので、子どもたちが強気でグレイスに当たるのが正直痛快な部分があるんですよ。被害者側に立ってる時、ある程度自分の反撃には正当性があると思っちゃいがちですよね。ここまでは完全に子どもたち目線でこの映画を観てました。ミアが凍った池に人形を落としてしまうと、グレイスが頑張って取ろうとして自分が落ちて凍えてしまいますが、ここら辺でグレイスって悪い人じゃないのかもと思えてきます。

 

さてこの映画、多くの人が感じたと思いますが、非常にアリ・アスターの"ヘレディタリー"と共通する箇所が多いです。やはりまずドールハウスの演出。何度も人形たちの配置が換わったドールハウス(ロッジの内部そっくり)が意味深に映されます。映画を後半まで観ていれば、子どもたちがグレイスを「懲らしめる」ためにドールハウスを使って計画を練っていたことが分かります。さすがにミアは"ヘレディタリー"のトニ・コレットと同様にセラピーとしてドールハウスに触れていたわけじゃないでしょうが、キャラクターの行く末を暗示しているように見せているところが"ヘレディタリー"の誰かに運命を操られている感を想起させましたね。本作では実際は子どもたちに操られていたわけですが。ドラマですが"ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー"でもドールハウスが使われてました。"ヘレディタリー"以前と以後でホラーの世界は変わってしまったのかもしれませんね。主人公、というか感情移入させられる対象がストーリーが進むにつれ変わるところも"ヘレディタリー"っぽくはありますが、監督らの前作"グッドナイト・マミー"にも同様の特徴があり、今回も鮮やかな手口でした。本作の後半のグレイスがあまりにも可哀想で、応援せずにはいられません。飲まなきゃいけない薬を子どもたちに隠されたグレイスは段々様子がおかしくなっていきますが、一緒に人生やり直そうと決めた愛犬のグレイディも子どもたちのせいで死んでしまい、心がポッキリいきます。ちなみに、雪山で発狂と言えばご存じの"シャイニング"ですけど、例のホテルでジャック・ニコルソンより前にジャック・ニコルソン的惨劇を起こした人物の名前がグレイディですので、オマージュかも。スノーエンジェル(雪の上で仰向けになって手足を動かして作る天使みたいな形の跡)がたくさん並んでる光景は新鮮でしたね。不気味。監督らは、子どもの純粋でありながら残酷でもある天使と悪魔性に興味があるらしく、"グッドナイト・マミー"に続いて本作でも同様のテーマを語っていますが、"グッドナイト・マミー"と違って本作の後半では子どもにツケが回ってくるのも面白いですね("グッドナイト・マミー"では子どもにツケが回ってきたのかは曖昧)。

 

ところで、ジェイデン・マーテルって"IT"で見た時からなんて透明感のある俳優だろうと思ってましたが、本作とか"ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密"ですでに内面はアレなキャラクターを演じるようになってますね(笑)。でもジェイデン自身は"ダークナイト"のジョーカーみたいな役をやりたいみたいですよ。

 

グレイスが闇覚醒してからは、終始囁き声になるのも逆に怖いです。グレイスは必死に振り切ろうとしていた過去に追いつかれ、第二の集団自殺決行を示唆するラストで映画は幕を閉じます。Graceとは神の恩寵という意味ですが、なんと皮肉な名前なのか。もはやリチャードが死んでもスカッともしませんが、全部グレイス任せにしてるし、まあそもそもリチャードが悪いね! リチャードは毒親とまで言えない気がしますが、グレイスとエイダン&ミアは良くない親を持った者同士なわけで、手を取り合うことができなかったのが切ない。"グッドナイト・マミー"的に言えば、あの世ではそれが叶ったのかもしれないけど……。

 

 

★★★★★★★★  8/10点

 

Rotten Tomatoes  74%,51%

IMDb  6.0

グレイスみたいな人がいたらハグしてあげよう。