Heiroのシネマ・ミュージックフロンティア

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"スケアリーストーリーズ 怖い本(Scary Stories to Tell in the Dark)"(2019) Review!

物語は人を傷つけ、人を癒す

(※ちょっとだけ"ジェーン・ドウの解剖"のオチに触れています)

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公式トレイラー


『スケアリーストーリーズ 怖い本』予告編 2/28(金)公開

 

ラナ・デル・レイのカヴァー版"Season of the Witch"がフィーチャーされたトレイラー


『スケアリーストーリーズ 怖い本』2/28(金)公開  モンスター満載 ラナ・デル・レイMV解禁

 

邦題の"怖い本"って要らんだろ。

監督のアンドレ・ウーヴレダルの前作"ジェーン・ドウの解剖"がすこぶる気に入ったので今年の2月に劇場で見ましたが、レンタルも始まってたので見直しました。

超良い映画。

キャストは皆無名と言って良いでしょう。主演は"ワイルドライフ"などのゾーイ・マーガレット・コレッティ。"ワイルドライフ"ではチョイ役でしたが、そっちもかなり良い映画でした。ポール・ダノの監督デビュー作でしたね。

脚本・制作に我らがギレルモ・デル・トロが関わっています。

トレイラーでも劇中で流れる、オリジナルはドノヴァンの"Season of the Witch(魔女の季節)"。歌詞の意味について詳しくは知りませんが、曲名とは裏腹に明るい不思議な曲調で聴いてて楽しい曲です。最近他の作品でも聴いたなと思ったら、"マレフィセント2"のトレイラーでした。そっちは短調でゴシックな雰囲気でしたね。後からオリジナルを聴いたので妙な気分です。笑 なぜこの曲が使われているのか? 実はこの映画、魔女が出てくるんですねえ……、詳しくは後述します。

 

舞台は1968年。ホラー好きで作家志望のステラ(ゾーイ・マーガレット・コレッティ)は、幼い頃に母親に家を出て行かれた過去があり、ステラが原因と町中で噂されたため学校でも浮いた存在となっていた。友達はお調子者のチャックとジェントルマンなオギーだけ。ハロウィンの夜、いつもいじめてくるトミーに仕返しし、逃げる途中でメキシコ系のラモンに出会う。トミーを撒いたステラたちは肝試し気分で廃墟と化した19世紀の名家、曰くつきのベローズ家の館に入り込む。街の子どもたちを殺したと言い伝えられているサラ・ベローズが書いたとされる怪談本を見つけたステラは、自宅にそれを持ち帰ってしまう。その中には「ハロルド」と題された、なぜか真新しい真っ赤なインクで書かれた章があり、その主人公の名は「トミー」……。その夜、その章に書かれた通り、トミーはカカシのハロルドに殺され、自身もカカシと化してしまう。次の日、証拠がないので周りにサラの本の力を信じてもらえずやきもきするステラをよそに、目の前で新たな章が書き加えられてしまう。次なる主人公の名は「オーガスト(オギー)」……。

 

原作が児童文学だからといってナメてはいけません。Heiroもネットでベクシンスキーとかのホラー画像を探していた時期に原作のモンスターの挿絵を見たことがあります。あれはヤバい。あいつらがそのまま本作に出てきます。基本着ぐるみなどの実物というから一層気味悪い。

ゾーイ・マーガレット・コレッティが地味かわいい! いじめられっ子たちのジュヴナイル・ホラーと言えば最近リメイクされた"IT"がありますが、ちょっと似てます。いじめっ子がかなりサイコな所とか。メキシコ系のラモンが住人から目の敵にされてるのも"IT"の保守的な街デリーに近い。あと本が勝手に家に戻ってくるとか燃やしても焼けないってのはありがちな描写ではありますが"ババドック"を思い出しました。

スプラッターでは全くないですが、トミーがカカシ化するプロセスなどが実に嫌な感じ。オギーが異次元に連れ去られた後に残された、壁で途切れたベッド下の爪の跡や、チャックの姉ルースのほっぺから出てくる蜘蛛の大群など……。チャックがキモかわいい「ペイル・レディ」に追いかけられる「レッド・ルーム」の描写も上手かったですね。侵入した病院側に警報が鳴らされたため、赤いランプが灯るんですよ! 非現実的な存在が相手なのに現実にも追われている感じが非常に恐怖を煽ります。廊下をどこに曲がってもレディがいて、ゆっくりですが目を離すと確実に距離を詰めてくる描写も本当に気味が悪い。あれ? 「微笑みデブ」ってレディのことじゃね? ギレルモ・デル・トロの"パンズ・ラビリンス"に「ペイルマン」が出てきましたね。兄妹じゃね?

蝋菅でサラの肉声を聞いているときの電気ショック音とか、いきなりサラがこちらに向って話しかけてくる下りはゾッとしましたね。実は子どもたちが死んだのはベローズ家の製紙工場から垂れ流された水銀が原因なのに、家族ぐるみでアルビノのサラを犯人に仕立て上げようとしていたのにも戦慄。劇中でも「魔女」と呼ばれていましたが、まさに魔女狩りですよ! 魔女と言えば、"ジェーン・ドウの解剖"ですよ! ここではネタバレは避けますが、被害者が恨みから加害者に転ずるというアンドレ・ウーヴレダルのテーマは一貫していますね。(1作目の"トロール・ハンター"は未見なのですが……)

 

実体化してくるモンスターのほとんどはキャラ特有のトラウマから来るものではなく、昔聞いた怖い話とか、夢で見たのが基になっているので、その点は"IT"の方がドラマチックでしたね。ただ、ラモンを追う「ジャングリーマン」に関しては、襲われる直前にステラに「ベトナム戦争に行った兄がバラバラ死体となって帰ってきた」と話しているので、それを反映してるのかもしれません。それでこれまで逃げてきた徴兵に最後に向き合うわけですし。

っていうか、「ジャングリーマン」の直前のシーンでステラがステラ父から「母親がいなくなったのはステラのせいじゃない、母親本人の問題だ」と言われ、精神的に解放され泣いちゃうんですが、はい似た場面やっぱり"IT"にもあった!!!!!

ステラはサラの生きていた時代に飛ばされ、サラの人生を少しだけ追体験します。この時、同じ屋敷の中で過去と未来が交錯しており、ラモンが遠い昔に割れたようなステラのメガネを見つけるシーンではSF的な興奮にやられました。まさかこの映画でそんな描写があるとは。しかも家族の中にハロルドという人物がいることが判明。サラの家族が全員謎の失踪を遂げていることを考えると、ハロルドはサラによってカカシにされたのでしょう。

ステラは、サラが元は被害者ながらも無関係なステラたちに八つ当たりしていた事実を突きつけ、サラの真実の物語を公表すると約束したことで、サラは成仏します。この時のサラの叫びは家族への恨み、化け物と化してしまった己への後悔、ステラに理解された嬉しさなどがごちゃ混ぜになった複雑なものだったのでしょう。
成仏の際、ステラはサラから「自分の血で書きなさい」と万年筆を渡されます。そしてその万年筆で書かれたサラの物語は、校内で評価されます。
サラの呪いから解放され、ラモンはベトナム戦争へ行く決意を決めます。ステラは毎日手紙を送ると約束し、その1通目には「愛を込めて ステラより」の文字が。
一生精神病院で過ごすだろうと言われたルースとステラ親子が街を出る所で映画が終わります。消えたオギーとチャックはまだ見つからないままですが、きっといつかまた会えるはず。「物語は何度も語られると現実になる」から。非常にビターながら、同時に希望を感じさせるエンディング。

 

物語は人を傷つけるし、人を癒しもする。
これまでのサラやステラへの謂れのない噂と言う名の物語は彼女たちを傷つけてきました。しかし、逆に真実の物語によって彼女たちは救われた。ステラは父によって。サラはステラによって。
本作の物語って、とても作家的なテーマだと思いませんか。「自分の血で書く」というのも示唆的ですね。作家は心「血」注いで作品を書くわけですから。まさに小説家や映画監督が語るべきテーマと言えるでしょう。
ステラとチャック、オギー、そしてラモンが再会できるかは分かりませんが、ステラは人を救うための幾つもの物語を生み出していくでしょう。
続編はあってもなくても良さそうな終わり方ですが、もう続編のプリプロダクションに入っているようです!  現時点で、ゾーイ・マーガレット・コレッティとステラ父役のディーン・ノリス、そしてラモン役のマイケル・ガーザがキャスティングされています!! ラモーン!!!
ホラー映画は品がないと思い込んでいる人に見てほしい、良質な作品でした。素晴らしい!!

 

 

★★★★★★★★ 8/10点

 

Rotten Tomatoes 78%,72%
IMDb 6.2
比較的高評価なのも納得。